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あみのドミノ

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「あの子に会うんだ」
幸子が少し、トーンを下げた声で言った。
「えっ」と私は幸子の方を見た。下を向いて珈琲を入れている姿が、悲しそうに見えた。
「どうしてわかったの」
私はおどけたように装って言った。
「何年一緒にいるのよ」

幸子が達観したようなすねたような口調で言った。やはり解っていたかという気持ちがどこかにあって、私はもう言い訳は通じないと悟った。
「父親がわりだっていうから」と私はそう言って黙った。
「でも、若いし可愛いし、あの子がその気になったら……」
幸子が珈琲を入れたカップをテーブルに置きながら言葉を濁した。
「心配ないよ。娘より年下なんだから」 
「今までお父さんの築いてきた信用で、ここまで平穏に過ごして来たんだから」

幸子はTVのスイッチを入れると、画面に目をやった。私は妻の横顔をしばらく見ていた。目尻に皺が見える。若い亜美乃の肌とは比べようがない。しかし、誰にも代わることのできない安心感があった。私はいつでも帰ってこれるの安心感をあてにして冒険に出ていたのだった。

私は立ち上がり、幸子の肩に手を置いて「早く帰ってくるよ」と言って玄関に向かった。
「信じてるからね」
少し間があってから幸子の声がした。私は戻って抱きしめたい気持ちになったが、それもまた言い訳がましいと思い、そのまま家を出た。

私は今朝見た幸子の横顔を思い浮かべながら亜美乃と話しをしている。反対になっている。ちょっと前までは亜美乃の笑顔を思い出しながら幸子と話しをしていたのに。

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川