あみのドミノ
「私も若い頃あったよ。ただし身近に女性はいなくて、もてなかったからね。その湧き上がるエネルギーが会社や上役の批判となって、同期入社の半数がその勢いで辞表を出したんだ。私もね」
「ふーん。見たかったなその頃のお父さん」
「あ、彼はどうなの。その衝動というか」
私は自虐的に亜美乃が若い男と絡みあっている場面を想像してしまった。公園には人影もまばらだった。ベンチの一つには相手の出方を待っているような若い二人がぎこちなく座って前を向いていた。私は空いているベンチに座った。すぐそばに亜美乃が座り、それから少し腰をずらして私の腰に密着するように座った。薄いスカートごしに亜美乃のしなやかさを感じる肌の触感が伝わって来て、私の思いははち切れそうになる。
「彼は、自分から求めないの。優しいのか怖がっているのかわからない。多分自信がないんだと思うの」亜美乃はそのじれったさをぶつけるように私に身体を預けてきた。私は亜美乃の肩に手を置いた。小さくコリッとした感じの肩が私に次の行動へのスイッチとなった。私はその肩を引きよせながら、亜美乃の唇に自分の口を重ねる。ほんの一瞬、固く結ばれていた唇が柔らかくなって、私の唇と融合する。舌たちがうごめいてチークダンスを踊る。まだ若いんだと私の男が叫んでいる。
私の目は暮れゆく西空を見ていた。亜美乃が私の腿の上に顔を乗せて「ふふふ」と笑った。情熱的なキスをかわしただけでもう満足なのだろうか。
「おもしろい」と呟いて、私の不発弾の処理をしようとしている。私の手は亜美乃の小さな頭をなでている。まるで猫のようだ。爆弾が爆発しそうになって猫が顔をあげた。目が光ったように見えた。私は亜美乃の頭を両手で抱え込んだ。魂が一瞬空中に浮かび、すぐ戻ってきた。