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あみのドミノ

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日曜日、奥様、電話。亜美乃の言った言葉を反芻する。何が起こっているのだろう。解らない。私はえーいとばかりに家に電話をした。
「あ、お父さん。もてるのね」
「え、な、なんのことだ」
「今度の日曜日は何の日」
「またかよ。どうなってるんだ」
「何がまたなの。お父さん」
「佐藤さんね、今日お借りしたいって電話があったの。日曜日が父の日なんだけど、少し早めにお祝いしてあげるって、あの人父親が……」

私は幸子が喋り続けているのを無視して電話をきった。筋道は通っている。亜美乃は父の日のお祝いをしたいと心からそう思ったのか、周りを傷つけないで、さらに深みにはまらない策を講じたのか。いずれにせよ、亜美乃とは会える。私はほっと胸をなで下ろした。

夕方に亜美乃から電話があって、私は待ち合わせた場所に向かった。妻も知っているという安堵感と、どこか山葵の入ってない寿司を食べているような感じもした。

亜美乃は袖無しのTシャツにインド綿らしいふわっとしたスカートという姿だった。唇と頬がいつもより赤い。はっきりした目元と相まってエキゾチックな、そして女を感じさせた。私はお父さんではなく、恋人を演じたいと思った。

「さあて、その服装から変えてみようかな」
亜美乃は私の地味なスーツ姿を見ながらそう言った。たしかに亜美乃のファッションからは浮いている。どうみたって恋人には見えない。

亜美乃にひっぱられるようにして入った店で、私はTシャツを2枚亜美乃にプレゼントすると言われた。亜美乃が選んだ1枚は赤色で、私はそれは断って、モスグリーンと紺色にした。それからジーンズを試着した。家でははいているのだが、外に出る時はつい、スーツになる。私は試着室のカーテンを空けて亜美乃にジーンズ姿を見せた。くすぐったいような感じがする。

「裾は、あれえ、このまま大丈夫じゃない。足長いんだ」亜美乃が感心したように言う。
「今頃気づいたか」私も軽く返す。
「まあ、顔の他は理想的だと思ってたけどね」
「そんなに酷い顔か」
「まあ、まあかな」
「まあ、いいか」と言って私はカーテンをしめる。
「私は好きよ」と言う声が後ろから聞こえた。私は目の前の鏡に映った自分のにやけた顔を見て慌てて目をそらした。頭の中で私の顔はきりっとした渋い顔になる。

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川