あみのドミノ
11、ドミノは予想外の方向へ
私は犯罪者のように、亜美乃との仲を妻に知られる何か見落としたことは無いかと思いを巡らしながら会社に向かった。亜美乃は朝早く帰った。妻は名残りおしそうに「また、来てくださいね」と言っていた。亜美乃はそつなく社員としての役をこなしたようだ。幸子が私の仕事の内容に興味を持っていないことが幸いしたのかも知れない。滅多に会社に電話して来ることもない。だが、まてよと私は思った。私に電話をしてこなくとも、佐藤さんにという電話をするかも知れない。妹がでたら話がちんぷんかんぷんになる。どうしたらいいだろう。私は少ない知恵を絞って考えた。
一日中考えてようやく納得のいく答えが見つかった。家に帰って私は妻に「佐藤さんと気があったみたいだね。」と言った。
「そうそう、色々な好みが一緒みたい」と嬉しそうに言う。
「でも、直接会社に電話して誘わないでくれよ、他の社員に贔屓だとか言われるから」
私はそう言って幸子の反応を伺った。
「解ってますよ。お父さんの立場もありますしね、都合の良い時にまたお連れして」
幸子は納得したみたいだった。しかし、危険なことは危険である。いずれ佐藤という社員は辞めてしまったことにしなければと私は思った。もう一つの答え、亜美乃との付き合いをやめるという道もちらっと考えてはみるが、亜美乃から別れを言い出してこなければ止める気は無かった。
数日後、亜美乃から電話がかかってきた。
「この前は楽しかったです。私、ボロ出してなかった」とは言うものの、その声は自信に満ちていた。
「ああ、すごいね亜美乃は、女優やれるね」私はお世辞とも本気ともつかない気持ちで言った。
「へへ、女優になろうかな」
満更でもなさそうに、亜美乃が言って笑った。
「いつ会える?」私は亜美乃の笑顔を思い浮かべながら聞いた。
「奥様に悪いわ」亜美乃の声のトーンが下がる。ゾクッとした感じがした。その響きはかえって吸引力を持ち、また破滅してゆく負の快感に委ねたいような気分にさせた。