あみのドミノ
亜美乃が自分の娘より若いのと、亜美乃の堂々とした演技で、幸子は私との中を露ほども疑っていないようだ。幸子は久しぶりに華やかになった雰囲気に嬉しそうに、亜美乃と話している。
私はテーブルについて新聞をみながら、ちらちらと二人の様子を見る。
「あら、包丁の持ち方も切り方も上手だわ」
「へへ、結構器用でしょう」
「これはこのぐらいの大きさがいいね」
「はい」
私はこのままこうやって暮らせたらいいなあとも思う。二人の笑い声が台所に響く。幸福感がじわじわと湧いている。私はたぶんかなりにやけた顔をしているかもしれない。
いつになく賑やかな食事になった。幸子と亜美乃はおたがい誕生日が近いことが解った。かなり気があったみたいで、私は疎外感を感じるほどだった。妻がこれだけはしゃいでいるのを最近みたことはなかった。私はチクリと心が痛んだ。最後まで行っていないということが言い訳みたいに頭の中に消えたり現れたりする。
つい、雰囲気に飲まれて飲みすぎてしまったらしい。私はソファで二人の楽しく話すことを子守唄のように聴きながら眠ってしまった。
「デザートの時間ですよ」という亜美乃の声に私はぼーっとした頭を正常に戻そうとする。
見慣れた風景が目に入って自分の家だと解った。
「お父さん、いらないんだったら、私食べちゃうよ」
幸子の声に私はようやく正常の判断力がついた。二人でケーキを食べている。
「食事したばかりで、よく入るもんだな」私は起きあがりテーブルに着く。
「もう、1時間以上たってますよ」幸子が言って亜美乃と二人で笑った。
私は時計を見ながら、この1時間が幸せだったのか、損失だったのかと思った。
「それにしても、よく入るものだ」私は2個目を食べている二人に言った。
「別腹」と幸子が言って、「そうケーキは別腹」と亜美乃が言って笑った。