あみのドミノ
私はこの余裕は何だとばかりに亜美乃を見る。すべすべした肌、しなやかに動く口許、ゆっくりと咀嚼する姿さえもなまめかしく思えた。それはすべてを無くしても手に入れたい宝物のような気にもなる。今日の自分はおかしい、妄想が膨らむ。私の肌を這う亜美乃の唇が胸からだんだんと下方に向かって行く。
「お父さん、聞いてる」
私はハッとして亜美乃を見る、いや、ずうっと見ていたのだ。心は飛んでいたけれど。
「それでね、メリーゴーランドに乗ったんだ」
「そうか、良かったね」
「何よ、聞かせてくれっていうから話しているのに、上の空なんだから。奥様のことでも考えていたの」
私は亜美乃が言う[奥様]という言葉に敏感に反応する。疑似娘ではなく女として、愛人として亜美乃を意識してしまう。
「奥様か」
私は自嘲する。亜美乃は私の今の気持ちが解っているだろうか。ただ子供っぽく親代わりに思っているようでもあり、私の気持ちもすべて手に取るように解っていて、二人の関係を楽しんでいるような気もする。
「そうか、遊園地は彼にまかせて、私は別の所につれて行ってあげようか。大人の行く所へ」と言いながら、私はグラス一杯のビールで酔ってしままったのかなと思った。
「ん? どこ?」亜美乃が好奇心いっぱいの顔で見ている。
「行きたいならな」
私は、言ってしまってから頭に警報が鳴るのを聞いた。亜美乃は一瞬真剣な顔になった。
大人の女の顔だと私は思った。だが、すぐに少女の笑顔に戻った。私は戸惑いを覚える。
「どういう所かなあ」亜美乃は、また余裕のある笑顔を見せる。
「やっぱり、やめよう」と、私は気持ちが半々のまま言った。