あみのドミノ
カレーが食べたいという亜美乃のリクエストに応えて、私たちは地下にあるスナックともレストランともつかない店で向かい合った。
「ところで今日は何か相談だっけかな」
私はおしぼりで手を拭きながら聞いた。
「彼氏報告」
まったく何のためらいもなく亜美乃は応える。
「なあんだ」
「なあんだじゃないでしょう。今度聞かせてくれっていってたじゃない。もう忘れちゃったの」
「うれしくもない」私は娘より年下の疑似娘に対してすねたように言う。
「あ、妬いてるんだ」
亜美乃が嬉しそうに私を見て笑った。その笑顔で私は魔法にかかった様にすぐに気分が良くなった。
「そうか、張り合うなんておかしいか」私は明るくそう言った。
「奥様がいるくせに」亜美乃は少しトーンを落として言った。
私はズキンと反応した。それは罪悪感というのではなく、亜美乃の一面をみたような気がしたからだ。底抜けに明るく見える所は演技なのかも知れない。たったいまトーンを落として言った言葉が、すごくリアルに女を感じさせた。「奥さんがいるくせに」と頭の中でリフレインする。そして私は亜美乃が父としてではなく、男として私を見ているということだろうかと思う。
「どうしたの、だまっちゃって」
私の動揺を見透かしたように亜美乃が言った。私は亜美乃に視線を移す。とぼけた顔で亜美乃は私を見上げている。その顔は男にのぼせた女の顔ではない。私はその顔で正直になる。
「女を感じた」
「誰に」
「亜美乃」
「あらっ、今まで女じゃなかったんだ」
「娘」と私はやけくそのように言って、自分が亜美乃にもてあそばれているような気になった。さらについでのように「と、恋人」と付け加えた。
「いいねえ、そういうの」