あみのドミノ
私はTシャツにジーンズ姿の二人が手を取り合って歩く姿が目に浮かぶ。それは微笑ましくて嬉しい気持ちと、一人だけ取り残されたような気持ちにさせた。私は気を紛らすように冗談を言いながら歩く。すれ違う人々の中に私たちのことを(どういう関係だろうかという)好奇心で見て過ぎる人がいる。その中で誰かが私たちのことを見て「あっ」と言ったのを目のはしにとらえたが、私は知らないふりをして通り過ぎた。亜美乃も気づいていないようだ。社員だろうか、取引先の誰かか。いずれにせよ、私は(仲の良い)娘と一緒に歩いていたのだ。
「それでね、いつも喫茶店行って、レストランへ入って食事しておしまいなんだよ」
亜美乃が愚痴めいたことを言っている。
「やたら、遊び好きよりいいじゃないか。破滅はしないんじゃない」
私はライバルが、地味そうなのに安心してそう言った。
「まあ、そうなんだけどね。まあ、一緒にいて気を使わないからいいか」
亜美乃はそれほど不満というわけではないのだろう。しかし、これからずうっとそれではいずれ飽きられるだろう。私は自分の二十歳の頃を思い浮かべて、まあそんなもんだろうと思った。
「要するに、今日はあそこに行こうと男から強引に引っぱられたい訳だ」
「あっ、そうかも知れないね」
「そういうやつに限って、あとでつまんないとか、別の場所のほうが良かったなんて言うんだよ。自分が行きたい場所があったら言えばいいんだよ。お父さんはそのほうがいいなあ。彼がプレイボーイの方が良いなら別だけど」
「まあ、そういうことだね。私の方が年上なんだし」
「ああ、年下か、彼は」
「三ヶ月ぐらいね」
「二十歳の三ヶ月は三年ぐらいちがうかもしれないね。その男がおくての場合は」
「ふーん、そんなものかな」
私はいつの間にか、疎外感が薄れ、本当の父親のような気分になっていた。その感情は不本意な気もしたが、どこかで亜美乃に深入りするのを止めるブレーキが作動したのかもしれなかった。横断歩道を渡る時に、日没寸前の太陽が真横からあたり、路上に人々の長い影を移した。重なりあって動いているそのシュールな自分の影と亜美乃の影を見ながら、ベッドでもつれ合う姿を想像した。コツンと体のどこかでスイッチが入った。