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あみのドミノ

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8、奥様がいるくせに



社員の佐藤麻美が姉亜美乃と性格が似ていなくて良かったと思っている。顔もあまり似ていない。これがそっくりだったら、つい「亜美乃」とか口走って失態を演じることのなるだろう。亜美乃は麻美に私とのことは話してないと言っていた。亜美乃はそういう気配りはよく出来る。勤務時間内に電話をかけてくることもない。

会社の中には誰もいない。私は妻が作ってくれている弁当を食べ終えた。また頭の中には亜美乃が浮かんできている。
「しちゃった」亜美乃が悪戯っぽく笑う。

「しちゃった」頭の中でエコーになって余韻を残した。私は微かに嫉妬し、自虐的な感じに身を浸す。私は体内に若々しいエネルギーの抬頭さえ感じる。社員はまだ誰も戻ってきていない。手帳を取り出してKデザインの電話番号を押す。心臓がどきどきしている。高校生の夏休み、ろくに口を利いたこともない同級生の女の子に会いたくて受話器を取り、途中まで回して受話器を置いた時のことがよみがえった。
「Kデザインです」
若い女性の声がする。私は注意深く亜美乃かどうかを判断して、別人と解った。
「佐藤さんをお願いします」心はともかく、声だけは落ち着いて話せた。
「ちょっと待って下さい。」と相手は言った。詮索をされないで電話は替わってくれそうだった。すぐに「佐藤ですが」と押さえた感じで亜美乃の声が聞こえた。まだドキドキしている。丁度一人の社員が昼食を終えて戻って来たのが見えた。

「ああ、お父さんだけど」私は平静を装って話す。お父さんという呼び方にして良かった。社員には娘に電話していると思われているだろうということが咄嗟に頭をかすめる。
「別に用事はないんだけどね。声が聞きたくなって」
「あら、うれしいわ」

ちょっとふざけた感じで亜美乃は言った。同僚と楽しい会話をしていた途中だったのだろうか。ちょっとハイな感じがした。私はその流れにそって「どう、彼氏とはうまくいってるの」と聞いてみた。私自身、一番聞きたくないようでもあり、一番聞きたいことでもあった。
「うん、まあね」

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川