あみのドミノ
真奈美が二十歳の頃アルバイトが終わってから古本屋を周り、真っ直ぐに帰宅するのを見て少し心配になった。男に興味はないのだろうか。周りに若い男の子はいないのだろうか。男っけのないまま三十を越してしまうのではないかと心配になった。
「真奈美、誰か好きな人ができたらな、デートして夜になっても慌てて帰ってこなくてもいいからな。好きな人だったら、そいつの所に泊まってもいいんだぞ」
私が急にそんなことを言うものだから、真奈美はびっくりしたような顔をして私を見た。
「いや、その。ほら慌てて帰ろうとして事故にあったり、暗い夜道を歩くの危険だからさ。
居場所さえ分かっていれば、まだ帰ってこないと心配しなくていいからな」
と私は付け足したが、お前に虫がつかないのを心配しているんだよとは言えなかった。それから一年ぐらいたった頃だろうか。そんな父親の言った通りに律儀に、娘はある夜に電話してきた。
「ああ、お父さん。遅くなりそうだから、○○君の所に泊まるから。」
私はなぜか自分が好きな人と一緒に夜を過ごした時のことを思い出し嬉しくなった。
「解った。まあ、子どもは出来ないようにしなよ」
「えっ、……いやだ、お父さん何言ってんの。酔っぱらっているの」
確かにお酒は飲んでいたが、頭はしっかりしていた。それにしても娘は変な父親と思ったことだろう。それから「じゃあね」と娘は電話を切った。