あみのドミノ
目の前にいる疑似娘亜美乃に対しては、自分が楽しくなる気分はしなかった。もしかしたらこれが普通の父娘の感覚なのではないかと思った。
「もう、手を繋いで歩いたととか」
私は亜美乃が優しく大人しい男の子とどんなデートをしたのか興味があったので、からかい半分に聞いた。
「あ、良く解ったね」
亜美乃があっけらかんとそう言うので、私は苦笑するしかなかった。
「映画を見て、食事して、まあ定番ね」
亜美乃は私の感情をどう考えているのだろうか。本当に父親代わりだけなのか、男としては見ていないのだろうか。たぶんそういう風に分類してはいないような気がする。両方の混じったままの男として、そして私の感情も解ったうえでの言動ともとれる。その理性の高さが、私の家庭を壊さないで付き合ってくれるのではないかという都合の良い思いも私にある。私はずるいのだろうか。
「楽しかった?」
私は余裕のあるような態度で聞いた。
「うん、気をつかわなくていいわ。すーっと入り込めた気がする」
亜美乃がすーっと入り込めたのではなく、亜美乃がすーっと入り込むのだということを本人は知らないのだろうか。
「これからも続くんだ。お父さんとは会ってくれないんだ」
私はわざとすねたように聞いたのだが、亜美乃は至極当たり前のような口調で「お父さんはお父さん、いつ会ってもおかしくはないでしょう」と言って笑った。
この子はかなりしたたかなのだろうかとふと思ったが、そういう打算には見えない。本当に父親というものに憧れ、大きな包容力のある存在として作り上げているのかも知れない。私はそんなに大きくはないよと心の中で言う。