あみのドミノ
向かいに座った幸子は、嬉しそうに食事をしている。小さめの顔と口が亜美乃と似ている。食べ方も似ている気がする。私はこの妻を裏切っているのだろうか。いや亜美乃は疑似娘、いやそうだろうか。自分の娘よりもかなり頭の中にいるのではないかと思う。
「おとうさん、少しあげる」
私と同じ量を食べると多いのだろう。カボチャの天ぷらを私の皿に移した。妻もおとうさんと呼ぶ。お父さん、おとうさん、亜美乃と微妙に違うニュアンスにくすぐったい感じと、少しの罪悪感が湧いてくる。
「おとうさんかあ、もう二人だけで生活しているのにな。別の呼び方、」私が言いかけたら
「もう、長いから今さら替えにくいよ」と幸子は言った。
私はおとうさんという名が似合うのだろうか。それぞれ理由は違うが、おとうさんという呼び方は変えたくないと言う。
外に出た。歩道はひとでいっぱいだった。必然的に手をつなぐか喋り続けていないと相手とはぐれてしまうのではないかと思う。嬉しそうな顔、つまらなそうな顔、急いでいるもの、ゆっくり歩いているもの、私は妻の手を腕に感じながら、目の前の人々を眺めながら歩いている。ショートヘアーでワンピースの若い子を見ると亜美乃ではないかと顔を見てしまう。可能性はあるのだ。亜美乃も新宿が好きらしいから。こんな風にぶらぶらしていて出会う確率はどのくらいだろうかと思ってみる。宝くじなんかよりはずうっと高いのではないだろうか。私の目は亜美乃を探している。