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あみのドミノ

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私は少し冷めてしまったコーヒーを口に運んだ。亜美乃もコーヒーに手を伸ばす。
「ふーっ」と同時に息を吐いたので、二人で顔を見合わせ、そして笑った。
「ありがとう」亜美乃が改まった顔になって言う。
「ごちそうさま」私がふざけて言うと、亜美乃は一瞬キョトンとした顔をした。
「いや、ありがとうと言いたいのはお父さん」そう言って私は違和感に気づき、「やっぱり、変だよお父さんというのは」と亜美乃を見た。
「そうだね、これじゃ、しんきん、ん? きんしん、そうかんだよ」と亜美乃が言う。

私は大声で笑い出しそうになり、周りの静けさに、慌てて口を押さえた。亜美乃も一緒に口を押さえた。すっかり共犯者の共鳴みたいになった。
「出ようか」と小さな声で私は言った。亜美乃が頷いて支度を始めた。体の中に燃えかすが残っている感じがある。亜美乃はそういうことが無いのだろうか。私は亜美乃の小さな胸とちょっと張り出した腰のラインを見ながらそう思った。
「何か相談ごとだっけ、あれ、何か教えてくれだったっけ」
私は外に出てから亜美乃に聞いた。 
「もう済みました」亜美乃が私の腕にすがる。もう一方のハンドバッグを持った腕を大きく振るようにして歩く。

「やっぱり、お互い、お父さんて言うのはよそうよ」
私は、その奇妙な違和感をうまく説明できなかったが、亜美乃は解っていたのだろうか。
「だめ」と断定するように言った。
「それじゃ、だめなの、決めてあるの」

亜美乃は私が驚くほどきっぱりとそう言った。防波堤ということだろうか。それは自分にも必要なものかも知れないと、そう思い直した。私には長年連れ添った妻がいる。私を信じている妻がいる。その中を壊すようなことはしたくなかった。

亜美乃は【近頃の若い子は】とか、【女性とは】ではくくれない女性だった。妙にさばさばして無防備に近づいてくるかと思えば、絶対にこれから先には入ってはいけませんというものがある。私はブレーキ性能と加速のすばらしいスポーツカーをイメージした。果たして私に乗りこなせるのだろうか。

作品名:あみのドミノ 作家名:伊達梁川