あみのドミノ
そんな会話をしながら地下にある喫茶店に入った。音楽は甘ったるいムードの洋楽だった。薄暗く、あまり人の話し声もしていない。
「こんなところでいいのかな」と私は席に着きながら亜美乃を見た。亜美乃の小さな膝小僧が目に入った。ちょっとミニのワンピースの裾が上がって意外とふっくらとして白い太ももが見え、あわてて目をそらした。
音もなくすーっと店員が寄ってきて、メニューを指し出した。このクラブ風の雰囲気のせいだろうか、高めの値段である。コーヒーを注文する。
亜美乃は辺りを見わたし、満足そうに私を見た。
「ピッタリ」
「何が」
「雰囲気」
自然とヒソヒソ声になる。ほどなくコーヒーが運ばれてきた。
「通じたね」亜美乃が目の前のコーヒーを見ながら小さい声で言う。
「ん」私は亜美乃を見る。
「教えて」亜美乃の顔が私の肩によりかかって来た。私は期待してなかった訳では無かったが、一瞬躊躇する。
「キス」と亜美乃は短く言って心もち顔を上げた。小さな口が微かに開いて目の前で待っている。ズキッ! 私の体の奥のほうでスイッチが入った。
亜美乃の倍以上生きてきたせいか、それでも余裕があった。青春時代に年上の女性に教えて貰ったように私はキスを教えた。コーヒーの薫りのする柔らかく、そして若々しい唇という感触だった。
「これは恋人のキス」私は先生になっていた。そうしないと亜美乃に夢中になってしまう恐れが頭の中にあったせいだ。
「これは情熱の……」私の言っていることは聞こえているのだろう。亜美乃は微かに頷く。
店内の音楽が耳に入る。テナーサックスがメインのムード音楽だった。今まで耳に漠然と入っていただけだったが、メロディーもわかるようになった。余裕が出てきたのかも知れない。私は唇を放し、亜美乃の肩に手を置いた。亜美乃は私の肩に鼻を押しつけたあと、「ふふふ」と照れくさそうに笑った。亜美乃の体から甘い匂いがして、自分が凶暴化しそうになる。