しあわせの音
「お礼を云いたいそうだよ。料理も作るからお腹を減らして来てほしいんだって」
「お母さんは料理が得意なのか」
「それはもう、達人だよ」
その翌週、船越は擁護施設へ子供たちを迎えに行った。子供たちを車に乗せた彼は、意外に遠い目的地の地名に驚いた。
「何日お母さんと会ってない?」
「半年近くだよ」と、助手席の少年が云う。
一時間余りも車を走らせて辿り着いたそこは、古びた団地だった。駐車場に車を入れてから船越が外に出ると、建物の入り口になっている階段の前に佇む、見覚えのある女性に驚かされた。そのエプロン姿の女性は、極めて魅力的だった。
「松永さん!」
船越は感動している。タクシーの同乗指導をしたあの松永香奈とは、二度と逢えないだろうと諦めていた。その彼女と奇跡的に再会できたのだ。