しあわせの音
十一歳の詩織、十歳のまどか、九歳の美柚とは、以前から相性が良かった。船越は上機嫌で車を発進させた。高速道路から出て更に一時間程車を走らせた先に拡がっていたのは、美しい高原である。子供たちは何度も交替で船越を呼び、ここはどんな風に描けばよいのか、ここはどの絵具を使えば良いのか。そのような様々な質問を愉しそうにした。そのせいで船越の絵はなかなか描き進めることができなかった。
午後三時を過ぎたのでそろそろ帰ろうということになった。車の中で美柚がぽつりと云った。
「船越さんがお父さんだったらいいな」
「賛成!」と、芳樹。
「賛成!」と、まどか。
「大賛成!」と、詩織。
「……」
「あっ!船越さん泣いてる!」
「久しぶりにこんなところへ来たら、眼にゴミが入ったよ。それとも、花粉かなぁ」