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夜明けの呼び鈴

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病院にいた伯父さんから連絡が入ったのは、朝の7時30分頃だった。全員ですぐに病院に来て欲しいということだった。私達は、母の運転する車で病院に駆け付けた。

病室には、昨夜と同じようにおじいちゃんがベッドに横たわっていた。昨夜と一つだけ違っていたのは、ベッド脇のモニタの波形が、全てフラットになっていることだった。
私達が病室に入ると、部屋にいた看護師が出て行き、少し経ってから若い医師と連れだって病室に戻って来た。医師はおじいちゃんの胸に聴診器を当て、まぶたを開いてライトで瞳を照らし、最後に自分の腕時計を確認して、時間を告げた。この時間が、正式なおじいちゃんの臨終の時間ということなのだろう。
だけど私には分かっていた。もう、ここにはおじいちゃんの魂はないってことを。
おじいちゃんの顔を見つめながら、私は思った。
おじいちゃんは自分の生命が尽きようとした最後に、私に大きなものを残してくれたんだ。
おじいちゃん、私はもう大丈夫だよ。
私はおじいちゃんにそのことを伝えたかった。だけどおじいちゃんに最後に言えたのは、ほんの二言だけだった。

みんなが病室から出て行くとき、私は一番最後に出て行くことにした。そして、出て行く寸前に、ベッドに横たわって眠っているようなおじいちゃんの耳元に口を寄せ、みんなに聞こえないよう、素早く、小さな声で囁いた。
「おじいちゃん、わたし、おじいちゃんのことも忘れないからね。」
そして、もう一言付け加えた。
「よかったね。もう、おばあちゃんとずっと一緒だよ。」
私はそれだけ言うと、体を起しておじいちゃんをもう一回見つめた。そして、口の中で小さく呟いた。
「さようなら、おじいちゃん。」

病室から出ると、お父さんと伯父さんが何か話しながら歩いて行く後を、お母さんと伯母さんが歩いて行くところだった。
私は少し早歩きで皆に追い付いた。すると、伯母さんが私に振り向いて、小さな声で話しかけて来た。
「おいじちゃんになんて言ったの?」
私は少し恥ずかしくなり、伯母さんの目を見ることができずに、足元に視線を落としたまま答えた。
「今まで、いろいろとありがとうって。」
上目使いに伯母さんを見ると、伯母さんは微かに微笑むと前を向いた。私は再び足元に視線を落として歩き始めたけれど、なぜか足元が歪んで見えると思ったら、両目から涙が溢れ出していた。
私は両手の甲で涙を拭きながら、それでも廊下に涙をポタポタたらしながら、歩いて行った。

作品名:夜明けの呼び鈴 作家名:sirius2014