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覇剣~裏柳生の太刀~第三章

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光は天井を見ていた。
暗い天井を、夜である、深夜、夏の夜、眠れない、何かが覚醒していった、そう思う。
覚醒?これは、覚醒なのか。
驚き、初めに驚き、自分の考えが消し飛んだ。自分の慢心した心が消し飛んだ。
可愛くない自分のプライドが消し飛んだ。
いや、そうではない、自分は剣士を評価していたはずだ、誰よりも、千葉先生よりも、大山先生よりも、誰よりも、祖父、清十郎よりも。
 怖くなった、剣士がである。
 楽しくなった、自分がである。
 楽しい?楽しい!剣を交わることが、楽しい!?太刀を振るうことが。
もっと行きたいと思った。
稽古が!である。
もっと行きたいと思った。
稽古を超えた世界である。
超えた世界、真剣で超えた世界。
そうなれば、アレしかない。
あの世界しかない。
それを考えてしまう、それを最終的には考えてしまう。
アレ以外に何か?は無いのか?
探そうとする、暗闇の天井に探そうと試みる。
しかし、探そうとすると直ぐに浮かんでくる者がある。
先ほど、立切り稽古をした男、剣 剣士、光と同じ十八歳、自分と同じ剣士だ。
でも、同じでは無い。
剣士はアレをした。
多分、アレが初めてではないかもしれない。ぞくっとする。
考えると、ぞくっとした。
最終的にはやはりアレに戻る。
 剣士の太刀は、見えなかった、中段からの構え、一呼吸もない、何も無い、速い、そんな感情を、感覚を超えた何かが起こって、それは現れた。
時間が麻痺している、いや、自分の時間感覚が狂っていたのか?
光の咽喉、数センチの処に太刀があった。
あった、現れた、突然、その空間から出てきたような、そんな、感覚に襲われた。
次に突然現れたのは声だった。
剣士の声、掛け声、次は見えた、胴、合わせて動く、剣士の動きが見えた。
合わせて動く、考える前に身体が動いている。動かしながら、初太刀の感触を、感覚を思い出していた、思い出すというより、隣にもう一人の自分がいて初太刀を見ようとしていた。立切りの間合い、見切りの中で、同時にあの初太刀を何回もリプレイする。
何回もリプレイし、何回もその突然の太刀の出現に戸惑う。
剣士の太刀は、初太刀以外は緩慢に見える、だが柳生の門下生の誰よりも速く、精確だ。
しかし、二の太刀からは緩慢に見えた。
剣士と光はどちらともなく太刀を下ろし、鞘に収めた。
正座をし、深々と頭を下げる、礼で始まり礼で終わる。
「光さんは凄い、間合い、見切り、達人の域だ!」
剣士の感想に謙遜をしてみせる。
だが、どうしても初太刀が頭を離れない。
「なにか、間違えました?なにせああいう稽古は初めてなので、型や順番が分かりませんので、でも光さんと同じようにしたんですが」
剣士はそう言って身体をほぐし始めた。
光も身体を軽くほぐし始める。
「剣士さんこそ凄いですよ、またお手合わせしませんか」
「いや、自分は辞めようかと思っているので」
剣士はまたそう言って、右手に持っている村正を見ていた。
「もったいない」
「それより、なんか眠れそうですよ、付き合ってくれてありがとうございます」
剣士はそういうと出口のほうに歩き出した。
光は何か言おうとしたが、ただおやすみなさいとだけ言って道場の電気を消した。
初太刀、光はそう呟く、あれが真剣のアレ、試合だったら。
そう思うと、心が熱を帯びる。
いつも稽古では、実践を想定して行っていた。誰とでも、どこでも、いつもだ、他流試合でさえも、防具を付けた竹刀でさえも。
いつもだ、あそこまで心が無防備のときに太刀が来たのはあの男以来だ。
白龍、私の祖父であり、倒すべき柳生の男。
やはり試合(死合い)しかないのか。
そこに、行き着く、光は天井を見ながら先ほどの初太刀を見る。
だが、見えない、見えないから悔しい、悔しいから感情が動く。
覚醒、なのか、やはりアレに戻る、堂々巡りだ。
やはり試合(死合い)しかないのか。