アイラブ桐生・第三部 28~29
「それでは歓迎の意味も込めて、沖縄県民の憩いの場所、
コザの社交街でも案内しましょう」
沖縄の社交街というのは、
内地風に表現すると、歓楽街、もしくは遊郭を意味しています。
内地では売春防止法が1956年に制定され、公認で売春が行われていた
「赤線」地域は、1958年に全廃をされています。
しかし沖縄は、日本の法律がまったく適用されない占領下の外国です。
ベトナム戦争が激化するのにともなって、歓楽街と基地の周辺では、
酒と売春婦と薬物があふれかえり、欲望だけが
日夜にわたって暴走をするという、きわめて危険で
異常な地域として、変貌をしつつありました。
「ただし、くれぐれも注意をしてくれ。
黄色いナンバーは、米軍関係車両だから特に用心をしてくれ。
Aサインバーは、米軍人や軍属もOKと言う意味ですが
全部が赤線というわけではありません。
ただし、白人と黒人は絶対に同じ場所では酒を飲みません。
ここでの住みわけは安全のはずですが
それでも最近の社交街は、すこし危なくなってきました」
道路を横断しながら青年が言葉を続けます。
「実は例のコザ事件直後に、米軍が外出禁止令を出しました。
暴動への報復処置というところです。
すこしずつ、時間制限を緩めてきましたが
いまのところまだ、完全撤廃には至っていません。
そうなると、軍需に8割も依存をしているこのコザの町の経済は、
あっというまに困窮をしてしまいます。
それがやつら、アメリカ軍の狙いなんです。」
飲み屋街が始まる街角に立って、青年が指をさします。
「白人たちと住み分けてきた沖縄の”社交街”にも、
Aサインバーが増えてきました。
しかも、内容的には、中途半端な赤線地帯です。
それだけ余計に始末が悪い。
つまり、ここでは何が起こるのかは、まったく予想がつきません。
それが今の沖縄県民用の『中の街社交街』の実態になってきました。
特に、本土から来てくれた、美人のご婦人がたには、
充分に注意をしてもらわないと。」
青年のひと言に優子と恵美子が一瞬緊張で、
顔をこわばらせます。
二人の不安そうな眼差しがほとんど同時に、
私のほうへ飛んできました。
(俺は、おまえたちのボディガードかよ・・・)
作品名:アイラブ桐生・第三部 28~29 作家名:落合順平