アイラブ桐生・第三部 28~29
訪ねた先は、「ユーコ」というお店です。
中の町社交街のはずれにある、優子のおかあさんが経営しているお店です。
入り口に、Aサインは掲げてありません。
何故かそれを確認しただけでも、気持ちがほっとしました。
Aサインがないということは、ここは地元の人のためだけのお店です
切れてしまった、傷の手当てを済ませた直後のことでした。
「あんた、コックだって、何か作ってみてよ。
なんでもいいからさぁ~。」
ふっくらとした優子のお母さんにそう声をかけられました。
コックじゃねぇ、板前だ・・・と思いましたが、
いくら説明してみたところで、ここでは分かってもらえそうもないので、
仕方ないかとあきらめて、とりあえず厨房に立ちました。
狭い厨房をざっと見渡してみたたものの、めぼしいものはありません。
小さなバーの、形ばかりの小さな厨房ですので、所詮、
たいしたものが置いてあるはずなどがありません。
その辺に放りだされたままの、野菜たちをかき集めました。
形は悪いものの新鮮なことだけは、
手にした瞬間に手ごたえだけで良くわかります。
豚肉を転がっていたので、刻んで手っとり早く野菜炒めなどを
作ることにしました。
フライパンに砕いたにんにくと
赤とうがらしをたっぷりと放り込み、薄い煙があがるまで加熱をしました。
ころ合いを見計らって、刻んだ豚肉も投入します。
香りがたってきたところで、ザク切りにした野菜たちを入れます。
ここからは時間との勝負です。
炒めものは、強い火力と短時間で調理することが、
見た目にも食感的にも雲泥の差が出る調理です。
作品名:アイラブ桐生・第三部 28~29 作家名:落合順平