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白月と源造じいさん

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 東北のある村に源造じいさんという年寄りがいます。
 源造じいさんは村外れの小さな小屋に一人で住んでいました。どちらかというと、愛想の悪いおじいさんですが、昔なじみとの付き合いは今でも続いています。
 源造じいさんはもう七十歳を遥かに超えているはずですが、足腰もしっかりしていて、よく谷川にイワナを釣りに行ったり、山に山菜を採りに行ったりしています。
 そんな源造じいさんですが、かつてはマタギという猟師でした。それも一発しか弾の出ない銃で確実に獲物を仕留める凄腕でした。今まで何十頭の熊を仕留めたことでしょうか。
 しかし、もうマタギも辞め、今はのんびりと暮らしています。

 秋の気配が忍びよってきたある日、源造じいさんは谷川にイワナ釣りに出掛けました。
 最近の釣りブームの影響か、近頃はイワナの数がめっきり減ったように思えるのが、源造じいさんには寂しくてたまりません。
 源造じいさんの数十メートル先でも赤い毒々しい色をした糸の先に毛鉤を結んだ若い釣り人が、さかんに竿を振っています。でも、その釣り人はすぐに釣りを止め、引き返してきました。
「釣れませんよ」
 若い釣り人が源造じいさんに声を掛けてきました。
(ふん、西洋かぶれの若造が……。釣れんのは、お前さんの腕のせいじゃろう)
 源造じいさんは心の中で呟きました。
 源造じいさんは帰る若い釣り人を横目に見ながら、竿を振りました。岩と岩の間から水が流れ落ち、小さな滝を作っています。その流れは淵を作り、巻き返しています。
 源造じいさんは流れにテグス(釣糸)を乗せると、巻き返しまで流します。すると、すぐゴンッという魚の感触が竿を通して腕に伝わりました。
 源造じいさんは一気に魚を抜き上げました。見れば、それは二十五センチ程の飴色をした綺麗なイワナです。
 帰りかけた若い釣り人は振り向いて、羨ましそうに源造じいさんを眺めました。源造じいさんはそのイワナを自慢することなく魚籠にしまいました。
 若い釣り人はうなだれて帰っていきました。その身につけた衣類や道具だけが立派です。

 源造じいさんはどんどん谷川を釣り上がって行きました。数が少なくなったとは言え、イワナはまだまだ釣れます。
作品名:白月と源造じいさん 作家名:栗原 峰幸