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アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27

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 迷彩色を施したファントム戦闘機は、
私たちが見つめているわずかな間に、
海上すれすれにまで舞い降りました。
低空飛行を維持したまま、銀色の塊が全速力でこちらに向かって
急接近をしてきます。

その鈍く光る銀色の塊は、あっというまに
私たちの直前までやってきました。両翼を怪しい鳥のように押し広げて、
地上に真黒い影を落としながら、私たちへの至近距離にまでやってきて、
ついに目と鼻の先にまで迫ってきました。
次の瞬間に、何かが空中で炸裂をしました。
びりびりと空気が切り裂さかれた瞬間に、私の耳は何も
聞こえなくなってしまいました。
すさまじい振動と土煙を、あたり一帯に撒き散らしながら、
ファントム戦闘機が、私たちの頭上を、
超低空のままで飛び去りました。

 巻き起った、砂塵と爆風のために視界がまったくありません。
きな臭い空気が倒れ込んだ私たちの背中へ、
小石や土の塊を落としていきました。
突風に翻弄された優子の麦わら帽子は、あわててかかえこんだ
その両手から、とっくにもぎとられてしまい、
遥か遠くへ飛ばされていました。




 「・・・・お願い、群馬。乙女の胸が大ピンチなの。
 庇ってくれたのは、とても嬉しいけど、
 乙女の胸がつぶれてしまいそうだわ。
 申し訳ないけど、私の背中から、
 もうそろそろ降りてくださるかしら。
 いきなりすぎて・・わたしったら、
 群馬に襲われるかと思った」


 吹き飛ばされた帽子を目で追いながら、優子が苦笑いをしています。
恐怖を感じた瞬間に私は、反射的に優子を庇った体勢のまま、
力いっぱいサトウキビの中へ押し倒していたのです。
きな臭い火薬のにおいが、まだあたり一面に濃厚に立ち込めています。
私たちの頭上をすりぬけたファントム戦闘機は、
耳に激しく残る金属音を響かせながら、
海上を左に旋回しつつ、再び天空にむかって
急角度の上昇を続けています。


 「あいつらは、ああして旋回してから、
 また急降下をしながら、実弾を落としにやってくるんだ。
 あいつらも必死に訓練しているけれど・・私たちも必死だの。
 いつまでも好き放題に、野放しにしていたら、
 先祖の土地も、おとうの土地も、いつまでたっても返ってこない。
 伊江島に生まれた人間は、怖いけれども戦うしかないの。
 銃とブルドーザーと、あの戦闘機と。」