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アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27

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 帽子を拾って立ち上がった優子が、
背筋を伸ばして大きく胸をはります。
はるか西の空で旋回を続ける戦闘機からは、一瞬も目線を離さずに、
さらに優子が言葉を続けます。

 「負けてたまるか、負けるもんか。
 優子は、おとうと約束をしたんだ。
 伊江島の先祖の土地が、最後の一坪まで、
 完全に返ってくるまで戦うと。
 ここは私が、生まれて育った土地だもの、
 おとうが生まれ、おかあもここで生まれ私を育ててくれた土地だもの。
 踏みにじられたまんまになんか、絶対にするものか。
 おとうのために、みんなのために・・・・」



 私も優子の肩をだいて立ち上がりました。
俺が守ってやる、そんな意気込みと決意をしっかりと指先に込めました。
すこし優子の前に出て、旋回しながら戻ってくる戦闘機を
しっかりと睨みました。
来るなら来てみろと、気合を込めて、私も胸を反らします。
背後から、優子の軟らかい手が私の腰へ回ってきました。
静かな声も聞こえてきます。



 「無理すんな、群馬。
 気持ちは、とっても嬉しいけどさ・・・・ 」


 振り返えるとそこには・・・・
ま深にかぶった帽子の大きなつばの下で、
優子の瞳がほほ笑んでいました。
『ありがとう』と言っているような、
そんな優しいと思える光があふれていました。




   ※1969年に行われた日米首脳会談で
  「72年・核抜き・本土なみ」の沖縄返還が合意しました。
   ベトナム戦争の早期終結を画策したニクソン大統領と、
  佐藤栄作首相による、次の段階を見据えての
   あらたな政治的決着です。
  米軍の占領支配ともいえる、無権利状態の
   植民地支配が終りをつげて、
  1972年5月15日、沖縄は日本に復帰することになりました。

    しかし当初の思惑からは大きく外れ、
   米軍がベトナムから撤退したのは、
   その翌年の3月29日のことです。
   また沖縄県民の最大の悲願であった、
基地の縮小と撤去は実現されることはなく、
   復帰後も存続し続け、それは今日にまでも延々と続いています。




 夕暮れがせまるまで・・・
射爆場の一角で、私は優子とともに米軍機の実弾演習に
抗議の目を光らせました。
それは沖縄が、施政権返還まであと一年余りにと迫った、
1971年の春のことです。
優子も私も、ともに21歳の春でした。




<第2部>第三章 完