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入ったもの出たもの ―しんにゅう―

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 あっさりと開いた戸の先の廊下には、寝間着姿の少女が立っていた。加えて部屋に踏み込んできて、後ろ手に障子まで閉めた彼女。
 その姿と雰囲気から日頃との違いを見付けることが出来なかった。
 しかし兄はの方はこれが本物であると確信したのか、その頬に躊躇い無く手を伸ばす。

「どうしたの? こんな夜中に」

 こんな冷えきって……両手で優しくミサキの頬を撫でる兄に、

(こんな短い間で本物か分かるものなのか?)

 カクタスは訝しく思ったまま警戒を深める。
 一方、アッシュに触れられたミサキは、無表情のまま擽ったそうに目を細め、寒さのあまり赤く染まった唇を開いた。

「詳しい理由はまだ言えないのですが、今は部屋に戻れない状況なのです。もしお邪魔でなければ、今夜はこの部屋に居させて頂けないでしょうか?」

 そのミサキの頼みに、アッシュとカクタスはきょとりと目を丸くしてしまう。
 夜中に突然着の身着のままで訪れて、理由も言わずに泊めて欲しいとは、なんとも奇妙なことである。

(こりゃあなんか大変なことがあったな)

 その結論に達したカクタスは、後輩の様子から何があったのかを聞き出そうとしたのだが、
 そんな彼をよそにアッシュは言葉を返す。

「ああうん、サ・ヌ・フエ・リヤン(構いませんとも)。泊まっていきなさい」
(ええ!?)

 兄のその言葉に、カクタスは動揺してしまう。

(ちょっと待てよ、泊めるのはいいけど、だったら俺は……)
(どこに行きゃいいんだ!?)

 彼が悩みはじめるのは訳がある。兄とこの後輩が、ただならぬ関係にあると知っているからだ。
 『ただならぬ』と言っても、それは険悪な意味では無い。
 極めて友好的な、いいや、それを通り越して男女の恋愛に近い意味での『ただならぬ』関係なのだ。この部屋の布団は、アッシュとカクタスが使用している二組しか無い。つまり布団が一組足りないのだ。
 深夜であるため、他の部屋にも借りに行けず、部屋にある分でどうにかするしかないのだが、兄が愛しい少女を直の畳の上に眠らせるわけも無いだろう。
 自分だってそんな気はない。どちらにしろ、カクタスは居心地悪くなるのは明白だ。今でさえ肩身が狭い現状であるのに。

(今、俺は部屋を出ていくべきなんだろうか……しかし、それを言うにもどう言ったものか……)

 内心で激しくそう悩みながらも、
 兄は弟のミサキを泊めても良いかという否定を許さない声色での問い掛けに、肯定の意を返した。