「哀の川」 第二十六話
カバンからビニールに包まれた小さなパックを杏子は渡した。何故それを携帯していたのかは不明だが、純一はとっさにポケットにしまった。
「杏ちゃん、ありがとう・・・持ってなきゃいけないよね・・・でも買いづらい・・・」
「大丈夫よ、私のをあげるから。きっと必要だと買ってあげていたの」
「そう、気が効くね・・・優しいね杏チャンは、嬉しいよ」
純一は杏子が細かく自分に気遣ってくれている事がとても嬉しかった。自宅へ車が着いた。今日は杏子も泊まって行くと言った。純一の部屋しか空いていなかったので、麻子は黙認して泊まらせた。
旅の疲れからか、みんなは家に入るとそのままベッドで寝てしまった。純一も杏子も同じ様に眠ってしまった。翌朝目を覚ました純一は杏子が居ない事に気付いた。台所に居た母に尋ねてみると、
「純一を起こさないようにして、と言ってさっき帰って行ったわよ。そうそう、手紙が届いていたわ。はい、これ。山本って書いてあるけど、誰なの?」
「なんだ、勝手に帰っちゃったのか・・・山本?ああ、部活の顧問の先生だよ。なんだろう?手紙って・・・」
作品名:「哀の川」 第二十六話 作家名:てっしゅう