欠片
「あ……! すみません。窓口の担当者が席を外しておりまして……」
若い女性だった。私より少し若いように見える。彼女は慌てた様子で窓口にやって来ると、何でしょう、と私を見上げて言った。
「参謀本部のロートリンゲン大将閣下から依頼されて、書類の提出に参りました。参謀本部所属員のシフト表とのことです」
封筒を渡すと、その女性は解りました、と微笑して応える。
その笑顔にどきりと胸が鳴った。まるで陽だまりのような笑顔だった。綺麗な女性ではあるが、それだけが要因ではないだろう。この女性には何か人を惹きつけるようなものがある。違う。そうではない。何か違う。この女性は私に無い何かを持っていて、それが内面から外面に表れているようで――。
「書類、確認しました。担当者に渡しておきます」
「あ……。ありがとう」
いけない。茫としてしまった。気を取り直して、宜しく頼む――と告げてから、その場を立ち去る。
事務局で彼女のように若い女性を見かけたのは初めてだった。今年、本部に入ったのだろうか。おそらく軍人ではないだろう。事務職員として採用されたに違いない。
それからも本部の一階を通るたびに、何気なく彼女の姿を探してしまった。