欠片
「フェルディナント様、ハインリヒ様。あちらの木を御覧になって下さい」
そっと二人に伝えると、二人は其方に視線を遣った。長男の方が先に、あ、と声を上げる。次男もそれに気付いて、リスだ――と言った。
「わあ……! 初めて見た……!」
二人とも嬉しそうにリスの姿を見つめる。流石にこの近くまで下りて来ることは無かったが、二人とも満足そうに笑んでいた。
マルセイユでの護衛が終わったのは、この翌週のことだった。ロートリンゲン大将が迎えに来て、全員がマルセイユを後にした。長男は自力で立ち上がれるまで回復していたが、まだ歩くことが出来ず、リハビリを要するとのことだった。それでも、当初は呼吸さえできない状態だったというのだから、かなり回復したには違いない。
「どうもありがとうございました」
最後に、長男は俺達に向かって丁寧に礼を述べた。そうした姿は微笑ましいものだった。何よりも今回の任務では、暖かな家族の姿を目の当たりにした。羨ましく、柄にも無く、俺自身もこんな家庭を築きたいものだと思った。
いつかは――。