【第十一回・四】らぶりーべいべー
「何してんだ;」
動いていた坂田の頭を両手で真剣白羽取りのように掴んだ京助が言った
「おきゃーりー」
南が言う
「あー…ホイ携帯」
京助が坂田に携帯を差し出した
「引っかかりは取れたか?」
中島が聞く
「…まぁ…たぶん」
京助が置いてあった自分の箸を手に取った
「すごいねぇ…声だけで癒されたっしょ」
南が京助の背中を叩きながら言う
「でも…やっぱ引っかかる…んだよなぁ;」
京助が黒くなった肉をつまみあげながら言った
「…なぁ京助」
坂田が肉を半分口から出した阿呆面の京助に声をかけた
「にゃひた?」
肉を半分口から出した状態で京助が返事をする
「…もしかしたら俺の引っかかりとお前の引っかかり…同じかもしれんのだよ」
「ほ?」
坂田が言うと京助だけではなく南と中島そしてハルも坂田を見た
「お前の引っかかりって…緊那羅と関係してねぇか?」
また坂田が言うと今度は京助に視線が移る
「…緊那羅…?」
京助が肉を飲み込んだ
「俺…最近なんだけどさ…緊那羅とは前に…ずっと前にあったような気がすんだ」
坂田の言葉に京助が止まった
「何で最近になってそう思ったのか俺にもわかんねぇんだけど…さ…何でか…」
坂田が口篭った
「ずっと前…に…?」
ザワザワとグランド横の並木の木が風に鳴かされる
「ハイ!! ストップ」
ここじゃ聞こえちゃアカンのではないか? という人物の声がして京助が振り向いた
「あ…」
「どうしたの? 緊那羅」
「え…あ…; …ううん;」
電話の子機を持ったままぼーっとしていた緊那羅にガキンチョ竜を腕に抱いた矜羯羅が声をかけた
「…なんでも…ないっちゃ」
緊那羅が作った笑顔で返事をする
「不安?」
「え?」
ガキンチョ竜を抱きなおしながら矜羯羅が聞いた
「京助がいなくて」
緊那羅がゆっくり静かに子機を戻して矜羯羅を見た
「…少し…」
そして苦笑いで答える
「…でも…なんだろう…なんだか…私最近…おかしいんだっちゃ」
「おかしい?」
矜羯羅が聞く
「…記憶に無いものなのに記憶にある…っていうか…たまに私がもう一人いるような…そんな感覚になるんだっちゃ…」
緊那羅がぎゅっと手を握って俯いた
「夢…とかじゃなく?」
矜羯羅が言うと緊那羅が首を振った
「わからないっちゃ…でも…でも…」
緊那羅の声が震える
「…イ、深呼吸」
「わっ;」
ポンっと肩を叩かれて緊那羅が思わず声を上げた
「制多迦…」
矜羯羅の声に緊那羅がやや斜め後ろを見上げるとヘラリと笑顔を向ける制多迦
「…んがえたくない時は考えない方がいいよ緊那羅」
そう言いながら腕に抱いていたガキンチョ竜を緊那羅に差し出した
「ふぷー…」
ガキンチョ竜が両手を緊那羅に向けて精一杯伸ばす
「…にか言いたいみたいだからつれて来た」
「…言葉わかるの?」
矜羯羅が突っ込むと制多迦がヘラリ笑顔を向ける
「…竜…」
緊那羅が呟きながらガキンチョ竜を抱き上げた
「貴方は…全部知ってるんだっちゃ…?」
緊那羅が出した指をガキンチョ竜が掴むと途端に緊那羅の頭の中に響いた声
『ごめんな…』
見えたのは青の中の小さな手
自分に向けて必死で伸ばしている小さな手と…
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作品名:【第十一回・四】らぶりーべいべー 作家名:島原あゆむ