ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半)
「・・・・・・ったく、不可抗力だっつうの!」
と、歩いて自転車を押しながら、光大は花楓に不満を垂らしながら、葦貴と共に瀬戸内海沿いの街道を歩く。
花楓はあの後、一人で真っ先に走って帰っていった。
幼馴染みにあんな恥ずかしい所を見られたら、そりゃあ、居ても立ってもこの場からすぐに逃げたくなるのは、当然の行為だ。
「ははは。お前はとことん運が悪いなあ」
と、花楓のアレを見たのに、なぜか打たれずに済んだ運のいい親友は、軽いノリで、彼が彼女から強烈な張り手を受けた痕をつつく。
「いてっ! 触るなよ、まだヒリヒリするんだからよ~」
張り手の痕をさする光大。相当、恥ずかしかったのだろう。鉄のように重く、ジーンと
くる。
「しかしまあ、あれは一体何だったんだ・・・・・・」
顎に手を当てながら、光大は先ほどの事をふりかえる。
学校で起こった、誰かが操作しているように見えた、竜巻のような強い風・・・・・・奇怪で、不気味な出来事だ。
いくらPCを使わずにネットワークを開くことに成功したとはいえ、あんなことができるのはまず不可能だ。あんなの、アニメや特撮もののような幻想(ファンタジー)のような、言わば現実に起こりえない超常現象じゃないか、と光大は思う。
UFOや心霊写真を信じない彼は、そんな風に分析することがあまりも馬鹿らしく思えた。やめだ、やめだ。
きっと、偶然できたものなんだ、と自分に言い聞かせる。
「ここも変わったなぁ~」
葦貴が廃れた街並みを見て呟いた一言により、自分はもうここまで来たんだと、光大は気づく。
―アスファルトで敷かれた瀬戸内海沿いの道を抜けた先にある、世界遺産・厳島神社をバックに広がる、廃れた商店街。
二人が小さい頃は、宮島の歴史・文化に興味を注がれる観光客たちによって賑わっていたが、もはやその影はなく、島の者たちが見に来ているだけだ。それでも、ごくわずかだが。
デジタルテクノロジーの進歩によって、島の街並み計画は大きく変わった。未来技術をもっと加速させるために政府は、『未来技術推進計画』というものを打ち出し、日本に広がる小さな島々を『未来科学開発研究基地』にすると発言したのだ。その計画対象に宮島も例外ではなかった。反対勢力はいるものの、政府の強硬な圧力で、未来技術研究の中心となる場所に認定されてしまった。
おかげで、世界遺産と評される神社もその価値を失い、宮島の最高峰・弥山の周りも次々と研究塔の建設が進められていた。もみじ饅頭を始めとする名産物たちも・・・・・・。
自分たちの故郷がこんなにも変わっていくことに光大は淋しさを感じる。
彼は、政府のやり方には疑問を感じていた。確かに、『夢』のある技術だが、そこまでして推し進める必要があるのか、と。
「まあ、これでオレたちの生活も、もっと楽になればいいんだけどなぁ~。政治家たちも『夢』の可能性とやらを、信じたってことなのかもな。おれも頑張らないとなぁ~」
『夢』の可能性という、葦貴の何気ない一言に、光大は思わずカチンとなる。
『夢』? これが・・・・・・!?
こんなゲームのような世界を実現することが『夢』だって言うのか? もっと、現実的に考えないといけないことはいっぱいあるだろう! 校長が言った『夢』だって、結局は大人たちの理想の実現のために、言い様に仕向けられた口実じゃないのか!? 『夢』ってのは、大切にしている場所を破壊するほど必要なものなのか!? ばかばかしい!! 夢、夢、夢!! イライラする!!
自分のグチャグチャな気持ちをどこに向ければいいのか分からなくなった光大は、
「うおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「こ、光大!?」
葦貴の存在を無視し、自転車に乗って、己の狂気に身を任せるように、猛スピードで廃墟街を駆け抜け、そのまま家の方へと向かった。
ごくわずかな島の者たちからの、「バッキャロー! 危ないじゃないか!」という罵声すらも耳に聞こえないほどに。
「ハァ、ハァ・・・・・・」
あまりの猛スピードで駆け抜けたからか、息が乱れてしまう。
葦貴にみっともない態度をとってしまったな、と光大は思いながら、元々、『宮島水族館』という娯楽施設があった場所から、自転車から降りて、瀬戸内海を見つめつつ、それを押していく。
光大は小さい頃から風景を見ることが好きだ。何もかもが輝かしく見えるこの宮島の景色が。
そんな風景を『夢のため』とほざいて、研究塔を建てて、自然を破壊していく政府に対して嫌悪してしまうのは、道理だ。
俺が見てきた風景を取り戻したい。そう思う光大であったが、子供一人の反論に政治家を始めとする、日本中の大人たちは耳も傾けてくれないだろう。今の日本は、夢というものに目が眩んでいる幻想論者ばかりだ。
そう思うと、ため息ばかりが溢れてきて、せっかくの風景も悲愴感でいっぱいになり、見るのがイヤになってしまう。
どうすればいいものか、と考えたその瞬間。
風が急に強く吹き始め、仮想世界(ゲーム・ワールド)にしか存在しない出来事と遭遇する!
「! な、なんだぁ!?」
光大の前に、何もない場所から謎の空間が開き、そこから自分より二歳ほど年上に見える、高級そうなベージュのコートを羽織った、腰まで届く長いストレートの黒髪、華奢な体にピッタリのタイトスカートを履いた、輝かしい美貌を放つ、完璧なお嬢様と言える女性が・・・・・・。しかし、その美貌とは割りあわないリュックサックを背負っている。
女性はその空間から、降りる。彼女が下りた瞬間、それはすぐに閉じた。
―夢でも見ているのか。
その一部始終を見た光大は、思わず花楓から受けた張り手の痕を触る。
痛い―夢じゃない。
信じていない幻想(ファンタジー)が現実(リアル)に降りてきたことに、ショックのあまり、彼女に直立不動のまま呆然としていた。
「・・・・・・おっと。人がいたのか」
今いる場所に少年がいることを、彼女はようやく気づく。
「あ、あんた・・・・・・」
光大は、ぶるぶる震えながら、
「ゲーム世界の住人なのか・・・・・・?」
こんなのありえるわけがない! と思いつつも、思いついた言葉で彼女に訊ねる。
彼女は彼の素っ頓狂な質問に肩をすくめる。
「はぁ? 何を言っているのだ? 私を非現実世界の玩具の中に入れるとは、少々、度が過ぎやしないか?」
―いやいや、十分、非現実だって!
心の中で彼女に突っ込みながら光大は、
「・・・・・・じ、じゃあどこから来たっていうんだ!?」
と、動揺する中で、自分が一番訊きたい質問をぶつける。
「それはだな・・・・・・と、話はあとだ」
女性は話を急に打ち切る。
「な、なんだよ急に」
わけが分からん。いまひとつこの状況を飲み込めない光大。
女性は唇に人差し指を当てて、
「シーッ! ・・・・・・何か妙な気配を感じないか?」
「妙な、気配?」
そういえば、と光大は思う。花楓とのトラブルから、『何か』が後ろから追いかられているような、そんな違和感を後ろから・・・・・・。
そんな彼の心を察知しているかのように、
「ふむ。試す価値はあるな」
と、彼女は左腕を伸ばす。そして、
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半) 作家名:永山あゆむ