ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半)
廊下に立たされた羞恥と大人(校長)への恨みを、剣道の部活動で発散した光大は、清々しい気持ちで靴を履きかえ、学校の校舎を出た。
青空が広がる中で、帰るのは久しぶりだ。普段は夜遅くまで活動があるから、いつも真っ暗闇の中を一人で帰る光大にとっては新鮮だった。
多分、今日が夏休み前だから、部活も早く終ったのかもしれない。夏の厳しい練習の余興として。
そんなすがすがしい気持ちが漂う中、
「おーい、コーウ!」
「こうちゃーん!」
背後から二人の幼馴染み―葦貴と花楓の声が聞こえてくる。
光大は右手を挙げて、二人に応える。
幼馴染み三人が揃って帰るのは珍しいな、と光大は思う。
葦貴は情報研究部、花楓は茶道部と、それぞれ違うので、一緒に帰ることは稀なことだからだ。
光大は、二人がこちらに来るのを待つ。三人が揃ったところで横並びになり、校門の方へと歩き出す。
「今日は夏休み前だというのに、散々な目にあったぜ・・・・・・」
「ははは、全くだ」
光大と葦貴は、今日の朝に起こった珍事をふりかえる。
「まさか、担任の雷を二度も受けるとは思わなかったよ・・・・・・」
光大はため息まじりに、ガミガミと担任に言われたあの状況を語る。二度とあの雷男の警鐘は鳴らすまいと、心に誓った瞬間であった。
「大変だったな。まあ、オレは先生からゆる~く注意されるだけで済んだけど」
はっはっは、と勝ち誇ったように葦貴は話す。
そんな彼を見て光大は、
「・・・・・・おまえんとこの担任が、神に視えてしまうよ」
と羨ましそうに話す。なんでこうも違うのか、と光大はつくづくそう思う。
「私から見たら、二人のやり取りに呆れるわよ・・・・・・幼馴染みとして情けないわ・・・・・・」
光大の左隣から、花楓が悲しそうに茶々を入れてくる。
「おっ、カエちゃんもオレたちみたいに、立ちたかったの?」
軽い口調で、葦貴が喰いついてくる。
「そんなわけないでしょ!」
花楓がばっさりと否定する。
「これから進路を決める大事な時期だっていうのに・・・・・・楽観的なんだから」
と、二人の軽度に胸を痛める。その姿はまるで二人の保護者みたいだ。
堅い話をガミガミ言われる前に、すぐさま光大が打ち切る。
「はいはい、堅苦しい話はまた今度な。それにしても・・・・・・何か変じゃないか?」
「変?」
不思議そうに、光大に訊ねる花楓。
「ああ。風の吹き方が」
「そういえば・・・・・・強くなったり、弱くなったり、音みたいにリズムを鳴らしているみたいに・・・・・・」
光大の指摘に葦貴も同感する。強くなったり、弱くなったり、強くなったり、弱くなったり、まるで、指揮者が操っているかのようだ。
「嵐でもくるのかな?」
と、疑問に感じる花楓。
しかし、空を見上げても雲一つない快晴だ。
こういう日もあるのかもな、と光大が思ったその時。
「きゃああああ!」
後ろから聞こえる二人の女子生徒の声に三人は反応する。
「なっ!」
その現象に一同は驚く! 二人の周りにだけ、竜巻のような強い風が吹いているのだ!
女子生徒たちは、必死にスカートを掴んでいる。その風はまるで、女子生徒のスカートの中を見ようとしている、下劣な通り魔のようだった。
「お、おお・・・・・・」
女子生徒の必死の抵抗に目を見張る、変態男子二名。
二人は淡い期待を寄せるが、
「もう、何見てんのよ! 帰るわよ!!」
鬼のように顔を真っ赤にした、花楓に一喝され、引っ張り出される。
女子生徒の方が気になり、ちらっと一瞥する光大と葦貴。すると、彼女たちの吹いている風がこちらへとやってくる!
「え、えぇぇえ!」
シンクロするように驚く二人。
それに気になっているとは知らずに引っ張っている花楓は、むかむかして、二人の手を急に離し、
「もう! 二人とも、いい加減にしないと・・・・・・」
花楓が二人の方へ顔を向けた瞬間、時すでに遅し。
暴風が花楓の下へ!
「う、うわわわわぁぁぁ!」
「花楓!」
光大が叫ぶも、無防備な彼女に、異常に強い風が巻き上がる!
「!」
光大と葦貴は見てはならないものを見てしまう・・・・・・。それは、彼女の青い水玉模様の・・・・・・。
花楓を中心に巻き上がる風は、水玉のアレが見えた瞬間、すぐに消え去っていった。
しかし、
「・・・・・・」
余りにも衝撃的な物を見てしまい、光大は花楓を見ながら唖然としてしまう。もはや、言葉もでない。
花楓も黙ったまま、俯いている。
「あ、あのー、か、かえでさん・・・・・・?」
恐る恐る、光大は声をかける。
すると彼女の背中から、炎のようなものがゴゴゴゴゴ、と湧き上がってくるのが見える。
幻覚ではない! 本物だ! ふんわりとした髪の毛が逆立つ!
「か、花楓、こっ、これはだな・・・・・・」
不可抗力だ! と弁解しようとした瞬間!
「こうちゃんの・・・・・・」
怒り狂った花楓が、勢いよく右手を振りかぶる!
「うわあぁぁぁ~。ま、まったぁ!!」
「バカーーーーーーっ!!!!」
ドゴーーーーーーン!!
・・・・・・その瞬間、光大の頭の上に星が回っているのは、言うまでもない・・・・・・。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半) 作家名:永山あゆむ