ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半)
(え、えらい目にあった・・・・・・)
高校生活最後の夏休み前の全校集会で、光大はそう思った。昨日の疲れが、今になってどっと襲ってくる。
担任の雷を受けた光大は、すぐさま廊下に立たされ、羞恥の的となってしまった。
すると、隣の教室からもガラッ、と扉が開く音がする。「俺と同じような奴がいるのかな?」とちらっと見ると、偶然にも、隣のクラスでは昨日、彼をゲームの世界へ誘った、メガネをかけ、ちょっと小太りなオタクボーイ―よっしー(よっくん)こと、清水葦貴の姿があった。
光大は小声で彼を呼び、事情を聞いた。
彼の返答はこうだった。「遅刻」という漢字二文字。
誘った本人が、遅刻してしまうという、些か滑稽な話に思わず、ぷっ、と笑ってしまう。
その笑い声が再び担任の反感を買い、雷を二度受けてしまったのだった。
―それが原因で、座って話を聞くことすら難しい状態へと陥っているのである。
しかし、夢について語りだす、校長のイヤミな話によって目が覚める。
光大が通っているこの高校―宮島総合文化高校は元々、『宮島文化高校』として、宮島の歴史・文化の素晴らしさを中心に、日本の古良き時代を学ぶ学校であったのだが、PCに接続せずともネットワークにつなぐことに成功した、デジタルテクノロジーの急速な進歩と普及に伴い、日本国民はその未来的技術に夢中になった。
それと同時にこの急速な時代の流れに逆らうことができなかった古良き文化の存在は、希薄となっていった。
その結果、入学する学生は年々減少していき、学校そのものが存続の危機に陥る事態となった。そこで対応策として、学生の個性を反映した、『夢』を実現していく学科―総合学科として生まれ変わったのである。
このように、学生たち『夢』のために、一歩を踏み出す支援をしている学校なのだが、中にはそれを見つけるために入る者もいる。
―光大のように。
彼は、家が学校に近いという便宜上の理由で進学した。『夢』は行ったらみつかるだろうとのんきに思い、興味がある科目をなんとなく受け、三年目の夏休みを迎えるわけだが、『夢』に結びつく形には至っていない。
一方で花楓は、入学以前からパティシエになるという『夢』(もちろん光大がきっかけ)があり、葦貴はゲームクリエイターを目指すために道を切り開いている。
幼馴染みのなかで唯一、光大だけが己の道を見出せずにいるのだ。
ゆえに二人のことを羨ましくも思い、同時に苛立ちがあった。
(なんだよ、『夢』って・・・・・・)
『夢』について語る校長の話に苛立ちが隠せない。
―将来の自分を想像しろとか言うけど、俺みたいに見いだせない奴はどうしろって言うんだ!?
自分の想いを今にでも校長に吐き出したい、そんな気持ちを押し殺しながら、苦々しい顔つきで、大人が若者たちに突きつけた『夢』の理想論を最後まで聞くのだった。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半) 作家名:永山あゆむ