電車で会った魔女
「占いもやるのよ、というかそれが職業なんだけど」と、話題を変えた。
「え~っ じゃあオレが客?」
少し前に恋に落ちたオレだが、まだ冷静だった。この魔女は通勤電車の中で商売をしているのだろうか? そんな気持ちをわかったようにマコが話を続ける。
「まさかあ、手相なら電車でもできるでしょうが、わたしの占いは気分を落ち着けて、集中しないとできないのよ。それにキヨシさん、今、結局はお金をとられるんじゃないかと思ったでしょ、失礼ね」
ちょっと怒ったふりをして口をとがらせる少女のようなマコも可愛い。ああどうすればいいんだ。これも魔法にかかった結果だろうかとオレは思った。
「あ、わかってしまったか」オレは少しおどけてそう言ってから「どんな占いだろう。何も売らない店とか?」と付け足した。
「あはは、うらない、それいいね。でも生活できないぃ」
マコがふふふではない笑い方をしたのが嬉しかった。
「あ、わかった。箒占い」
マコは、まだ笑いを引きずったまま、「箒は使わないよう。ま、ヒーリングのようなものかな」と言った。
「え、ヒーリングって、いやしいとか呼ばれるあれ?」
「キヨシさん、わざと癒やしを卑しいと間違えたでしょ」
「わかった?」
「わかるわよう、だって魔女だもん。ま、それはおいといて、人はね、心と肉体のバランスが崩れたとき、病気という形になって現れるの。そのバランスの崩れた所を察して適切なことばでアドバイスをしてあげるわけ」
「それって精神科の仕事じゃないの?」
「ああ、さすがぁ初恋の人に似てるだけあるぅ」からかいかお世辞かわからない表情をしたあと、真顔になってマコは話を続けた。
「日本じゃまだ気楽に精神科に行けないからね、意外と需要があるのよ」
「ふーん、じゃあ魔女じゃないんじゃない」
「いいえ、魔女です」
マコはオレの目を見て毅然としてそう言った。