電車で会った魔女
「魔女はね、マジックショーのように、物を出現させたり消失させたりとかはしないのよ」
じゃあ、具体的に魔法っぽいこと何か見せてよ、というつもりだったのに、機先を制するようなマコの言葉に、オレは黙ってしまった。
「得意なのはね、人の心の、悲しみや苦しみを癒やすことかな。ちょっとイメージ違ったでしょ」
「じゃあ、オレが悲しみや苦しみを抱えていると思ったの?」
「いいえ、違いますよぅ、キヨシさん悲しいことがあったの?」
逆に訊き返されて、オレは言葉に詰まった。
「ちょっとね、中学生の時に好きになった人によく似ていたからね。話しをしたくて念を送ったの。ま、テレパシーといえば分かりやすいかな」
マコの瞳が輝いて見えた大きな黒目に吸い込まれてしまうのではないかと思った。あ、オレは恋してしまったと感じた。考えがまとまらず言葉が出てこない。
「その人ね、頭がいいんだけど大人しい人でね。背が高くて、あまりスポーツが得意じゃ無い人だったの」
マコは正面のやや上に視線を向け、夢見る少女のような顔になっている。
「キヨシさんもそうでしょ?」
マコが急ににオレのほうを向いて訊いてきた。断定するその言い方におされた訳ではないが、オレは頷いていた。
「そのひととは、その後どうなったの?」
当然の質問をしたオレに、マコは表情を曇らせた。あ、色々な表情の顔をする。その色々な表情全部を好きになっているなあと自覚していた。
「よくある話だけどね、彼は私を友達としかみていなくて、他に別に好きな人がいることがわかって、色々悩んだわ。あ、私のことはもういいよ。他の話しよう」
「キヨシさん、好きな人はいるの?」
「今? あ、魔女ならすぐ分かるんじゃないの」
「えっ、ありゃ、やられたなぁ。でも分かるけど今は言わない。ふふふ」
「ずるいなあ」そう言いながらオレは、好きな人はあなたですと、心の中で言っていた。