電車で会った魔女
「もっと分かりやすい魔法はないの? 今のままじゃ魔法にかかっているとはわからないよ」
「あなた……あ、名前聞いてなかったね、わたしはマコ。残念ながら魔法の魔に子じゃなく、真実の真に子だけどね、ふふふ」
「え、あっオレ。どうしようかなぁキヨシとしておこう」
「ねえ、キヨシさん、こんな風にわたしと話をしているのを不思議に思わない?」
「え、そういえば、オレ」
普段、いくら酔っていても初対面の女性に声をかけることなどしたことがなかった。やはりこの女は魔法を使う?
「ほら、キヨシさんが電車内に入ってきた時、すぐに私が目に入ったでしょう。ま、わたしというか竹箒だけどね。そしてまっすぐにわたしの前に立った」
「うん、それはたまたま偶然かもしれないし」
オレは、まだ信じてはいないぞというニュアンスでそう言った。
「じゃあさぁ、キヨシさんは知らない女性に簡単に声をかけられるひとなの?」
黒目の大きい瞳にみつめられて、そう言われると、急に照れくさく感じた。言うべき言葉を探している間にマコが嬉しそうな顔をして言葉を続ける。
「ほらね、ふふふ。あたりでしょ」
「いや、オレ酔っ払ってたから」
「ああ、お酒飲むと女性に声をかけるひとなんだぁ」
「そんなことしないよ」と少し怒ったように言って、オレはすっかりマコのペースにはまっていることに気付いた。魔法について何か適当な話題はないかと思ってはみても、あまり魔女や魔法の知識はなかった。