ふたりの漂流記
「あれ?でも、そうだそうだ。黒沢圭ちゃんだよ。名前が変わりましたか?」
少年だった白瀬は放課後に何度も黒沢家を訪問していた。圭は牛乳と紅茶と砂糖で美味しい飲み物を作ってくれた。
「そうなの。実の父が亡くなったあと、母が川村家に嫁いだの。だから、わたしは連れ子ということなのよ。ねえ、あのとき孝之さんは将来わたしをお嫁さんにするんだって、断言したわよ。憶えてる?」
生まれて初めてのインスタントラーメンは、圭と一緒にひとつの鍋から食べたような気がする。自分のピンク色の箸が熱によって曲がってしまい、圭は泣きだしてしまった。
「残念ながら、憶えてるよ。そうかぁ、だからかな?その後誰ともぼくは恋愛をしてないんだよ」
「わたしもね、いつか孝之さんが迎えに来てくれるって、信じてたのかも。だからまだ未経験」
「……」
「どうしたの?黙り込んで、何?」