ふたりの漂流記
「……両親を同時に喪うなんて……お気の毒です」
それを聞くと突然圭は両手で顔を覆い、俯いて激しく嗚咽を始めた。白瀬は立ち上がり、厨房から濡らした布を持ってきてソファーの血痕を拭き始めた。洗剤を使ってもあまりきれいにはならなかった。そのあとチリ取りと箒を探し出してきて床に残っていたグラスや皿の破片、ちぎれて散乱する料理の切れはしなどを集めて取り、外へ行って海に棄てた。そのあとでワインとふたり分のワイングラスを広いサロンに持ってきた。床に固定されたテーブルの上に、それらを置いた。
「線香も読経もなしのお通夜です」
白瀬と同じように圭も眼を閉じて手を合わせ、そのあとでワインを飲んだ。白瀬は冷蔵庫からチーズを出して来た。
「川村圭という名前の芸能人が……」
「えっ!わたしと同性同名の?」
「……思い違いですね。でも、何となく聞き覚えがあるような……」
「わたしとあなたはひとつのベッドで眠ったことがあるくらいですから、名前だって聞き覚えがあって当然です」