ふたりの漂流記
「そうですよね。わたし、本当はこの船の持ち主の娘です。海の中に隠れていたので、身体が冷え切ってしまいました。失礼して、シャワーを浴びてきます」
「社長のお嬢さんですか。そうですね。そんなにびしょ濡れじゃ風邪をひいてしまいますからね」
白瀬は圭が姿を消すと立ち上がり、後部デッキへ歩いて行った。海は漆黒の闇になっている。どんな小さな弱い灯りも見えない。波はあまり高くはないのだが、また船酔いになりそうで落ち着かない。
今日は日曜日だということを、白瀬は思い出した。クルーザーは午後八時には帰港の予定だった。この船でのパーティーに招待されたのは、社員の中ではただ一人白瀬だけだった。先週入社したばかりの自分がなぜ招待されたのか、不思議だった。新入社員の歓迎パーティーという名目で招待されたのだが、全部で十五人の参加者のうち、顔見知りは社長と社長夫人だけであり、十二人は初めて顔を合わせた人たちばかりだった。その人たちは男女とも中年以上の、印象としては裕福そうな人たちだった。