ふたりの漂流記
機関室におりると使用目的がわからない工具がいろいろ置いてあった。白瀬は懐中電灯だけを取って戻って来た。
「懐中電灯はありましたよ。強力なやつがね。私もワインをまた少し頂きたいのですが」
白瀬は大きな懐中電灯を圭に見せた。彼女は随分飲んでいるようだった。
「ねえ、あと十日の人生だとしたら、何をしたいと思いますか?」
圭は明るい表情になっていた。
「そうですねぇ。この船の中でのことですよね……やっぱ、結婚でしょうね。ちょうど六月ですから、タイムリーだと、思います。今夜、結婚してください」
圭は更に明るい表情になった。
「そうねぇ。明日にしましょ。イルカが現れたら、イルカたちに祝福されながらね!」
「おお!素晴らしい考えだ。そう云えば、圭ちゃんは秀才でしたね」
「孝之さんは天才だったじゃない!大学の数学の入試問題を小学生のときに解いたんだもの」
「そんなこと、忘れてたなぁ。ああ、あれはね、アホな教師が特別に優しい問題を探し出してやらせただけ。どうってことなかったじゃないですか」