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アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25

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 壁に吊るされた洋服たちが、やがて大きく、左右へ揺れ始めました。
横方向の揺ればかりでなく、座っていてもそれと分かるほどに、
今度は前後の方向へ、大きな揺れがやってきます。
それは、大きな波を乗り越える時に発生するもので、
急角度に天井方向へ向かって上昇をはじめたかと思えば、今度は一転して
谷底へ向かって延々と落ちこんでいきます。
左右に揺れたうえに、前後にもあおられて、さらには斜め方向への
ローリングなども加わりました。



 外洋を走る、船独特の揺れでした。
気分が悪くなってきたために、甲板へ出ようとして無理に立ち上がります。
しかし、さらにこれが致命傷になりました。



 甲板から見おろす海は、どこまでも真黒です。
夜空も同じく真っ黒なために、海との境界線がかろうじて分かるのは
見え隠れを繰り返す星たちの存在だけです。
ついさっき乗船をした時に、安心感を持って意外に大きいと感じた
2000トンあまりのこの連絡船は、外洋へ出たとたんに、
まるで、木の葉の船のようになってしまいました。



 進行方向の目の前に、またしても巨大なうねりが迫ってきました。
船はその波を乗り越える前に、
まずは海底へ向かってまっさかさまに落ちます。
底にまで到着した船は、今度は船首一気にをあげて、
星空めがけての急上昇をはじめます。
登りきった瞬間には、もうその前方に、次の巨大なうねりが、
連絡船を待ちうけていました。



 「馬鹿だなぁ、
 甲板なんかに出たら、もっと悪い状態になっちゃうのに。
 おいで群馬、こっちだよ・・」


 心配して私を探しにやって来た優子に手を引かれ、
さらに階段をあがり、ほぼ船の中心部にあたる最上部の甲板へ出ました。


 「頑張ってね、ほら、こっち」



 ベンチに腰かけた優子が手招きをしています。

 「ここに横になって。
 そのまんま、上だけを見るんだよ。
 首筋は楽にして、
 なるべく、ゆっくりと呼吸をするんだよ。
 船酔いには、無駄な抵抗は禁物なの。
 肩の力も抜いて、リラックスをして頂戴。
 船酔いは、通り過ぎるのを自然に待つの・・・・
 おいで、ここ」


 優子が半分照れながら、
自分の太ももをしめして、枕代わりに使えと言っています。
ベンチに横になり、頭を優子の膝に載せました。
潮風の中に、優子の甘い香りがしました。


 「残念だなぁ、群馬。
 わたしも、まんざらではない気分なんだけど、
 そのうちに、きっと恵美子もやってくる。
 あっちの方も、だいぶ辛そうだったから
 潮風に当ったら気分もまぎれると、、
 此処に登って来る前に、誘っておいたから
 もうそろそろ、美恵子が邪魔をしに来るかもしれないね」


 なるほど、いわれるまでもなく、
下の甲板のほうから、優子を探す恵美子の細い声が聞こえました。

 「優しいんだね、優子は・・・」



 「あなたもそうだけど、恵美子も、
 沖縄が今置かれている現実を、
 内地の人たちに伝えてくれる大切な友人だもの。
 これくらいなら、お安いご用だわ。
 それに、戦士は傷ついたままでは戦えないし、
 百合絵の件でも、ずいぶん世話をやいてもらったし・・・・
 百合絵はねぇ、わたしたちには大切な姉貴がわりなの。
 私もずいぶんと面倒をみてもらっているし。
 群馬・・・・
 ここだけのはなしだよ。
 もしかしたら、百合絵の病気が治って、群馬となら上手くいくと
 大いに期待をしていたんだ、私たち。
 まぁ、これは、
 お礼代わりの、百合絵のひざまくらかなぁ 」

 そうか・・と思いつつ
南十字星はどの辺に見えるのだろうと、
額にそっと置かれた優子の暖かい手に、心から感謝しながらも、
目は勝手に、そのあたりの夜空を探していました。