アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25
九州の東海岸をひたすら南下を続けていく
日豊本線も、やはり長い鉄路です。
それでも進むに連れて、車窓の景色からは
早い春の様子が濃密になってきました。
本州の鉄路は、ひたすら地球を横に走ってきたという印象ですが、
九州に上陸したからは、ひたすら南下の旅が始まりました。
気のせいか、南下するにつけて海の色まで
暖かく感じるから、不思議です。
それでもここまで乗車を続けてくると、
すでに多くの乗客たちが、退屈し切っていることに変わりはありません。
それでも列車は、お昼の少し前から、
ほぼ夕方近くまでの時間をたっぷりとかけて、
まったく初めて見る景色の中を、南下していきました。
気がつけば、10代の若いカップルの姿が座席には有りません。
九州にはいってからの、どこかの駅で降りたようですが、
私には、まったく記憶がありません。
(いい旅をしてくれよ、若いの・・・・)
過ぎ去ってきた鉄路に向かって、ポンと捨て台詞を吐いてみました。
大分から宮崎を経由して、終点の西鹿児島駅(現在の鹿児島中央駅)
に到着したのは、午後7時がほんの少し前と言う時刻でした。
ようやく到着したホームへ降りたってみると、
意外なほど、列車から降りる人影がありません。
いずれもが、途中の駅で降りたと思われるために、ちょっとだけ
寂しいと思われる風景の中での、到着になりました。
改札口を抜けて駅舎の正面に出た瞬間
目の前の錦江湾越しに、煙をあげる桜島が見えました。
う~んと、3人並んで大きな背伸びをしたのもつかの間で、とりあえず、
宿を確保しなければなりません。
鹿児島港から出る沖縄行きのフェリーは、
明日の夕方、18時ちょうどからの出航でした。
こちらの方はすでに手配済みですが、宿は行き当たりで
探すことになっています。
幸いなことに駅前広場を見渡すと、
それなりにホテルや旅館が並んでいます。
これならば、それほど宿探しに不都合しなくも済みそうです。
「ねぇ・・・・ところでさぁ、
群馬は、花柄と透け透けとでは、どちらの方がお好みかしら」
「何の話だ、?」
「今夜の夜伽(よとぎ)の話。
ご希望は、とても乙女チックな花柄のパジャマがいいか、
それとも、妖艶で、脳殺系の透け透けのネグリジェがいいのか・・・・
あなたのご希望を聴いています。
どっちかしら、群馬のお好みは、」
澄ました顔で恵美子が、過激な発言をしています。
優子も負けてはいません。
「私なら、雑魚寝でも平気だよ。
ねぇ群馬、遠慮しないでさぁ、今夜は3人で
川の字になって寝ましょうよ。
それなら、百合絵もきっと文句は言わないと思うし、
万一、その気になっても美女ふたりが傍に居れば、不具合もないし、
どっちを選んでも不公平が出るから、皆で雑魚寝をしましょうよ」
いいかげんにしろと・・・・
まとめて二人をたしなめました。
25時間近くも列車に揺られ続けてきたために、
とりあえず早めに宿だけを決めて、早く呑みに出たい気分です。
今夜は、南九州いちだと言われている、
天文館の歓楽街あたりで、たっぷりと本場の焼酎を飲んでみたいと、
到着の前からすでに決めていました。
そんな風につぶやいてから、ボストンバッグを肩に担ぎあげました。
暮れかけた鹿児島の町へ向かって、3人で歩き始めます。
「ねぇ群馬。
やっぱり花より、団子のほうがいいわよね。
ここは焼酎の本場だもの。まずは無事の到着などを祝して
心行くまで乾杯などをしましょうよ」
私の気持ちを読んでくれたのか、優子が並んで歩きながら
横目で見上げてきました。
この子は控えめですが、時々優しい配慮も見せてくれる
嫌みのない、素直な性格の持ち主です。
おまけに、にっこりと笑うと八重歯がチラリと見えました。
この当時に、人気があった沖縄出身の少女歌手にも似た、
そんな笑顔があります。
先頭に立って元気に歩き始めた恵美子が
目の前にそびえたつ桜島に向かって、
2度3度と気持ちよくジャンプをしながら嬉しそうに
大きく手を振りはじめます。
「はるばる来たぜ、鹿児島へ~♪
お~い、桜島さん、こんにち~わ!。
あら・・・
もう今晩はの・・時間帯かしら?
どう思う、ねぇみんな。あれれ、もう後ろに居ない・・・
ちゃんと私の後ろに着いてきてよねぇ、二人とも。
着いた早々に迷子なんて、まったく話にも洒落にもなんないわよ。
私は根っからの、方向音痴なんだから、
勝手に歩いていかないでよ、
置いていかないでったら!
お願いだから。
ねぇ優子。
ねぇ、群馬ったら!
んん、・・・・もう!」
作品名:アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25 作家名:落合順平