アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25
私たちも降りましょうよ、
そう優子に誘われてホームへ降り、
売店などを物色して時間をつぶしました。
ここはもう、本州最後の駅で、この先にある関門トンネルをぬければ、
生まれて初めての異国の地、九州の地を踏むことになります。
いいえ、列車のままですから、正しくは、
「乗り込む」が正解かもしれません・・・
先頭車両へ向かって、九州仕様の機関車が
ゆっくりと後退をしてきました。
前後に立つ誘導員に指示をされながら、九州用の機関車が
鈍い衝撃と共に連結されて、関門トンネルへの準備が完了をしました。
軽い発車の衝撃の後、ゆっくりと列車は動き始めます。
門司のトンネルを目指して、車体が滑りはじめました。
10分ほどで関門トンネルをぬけると、九州です。
福岡県の門司駅では、列車の再編成のために5分間ほど、
また列車がとまります。
門司駅からは、鉄路が西周りと東海岸行きへそれぞれ分離されます。
東京からここまで連結してきた寝台特急の長い車両は、
東へ回り込む日豊本線の「富士」号と、西へすすむ鹿児島本線行きの
急行寝台として切り離されます。
ちょうどその作業が、通勤や通学の時間帯と重なりました。
やはりブルートレインの姿は珍しいのでしょうか・・・・
通学中の女子高生たちが、大きな窓に近寄ってきて
興味深そうに覗いていきます。
遠慮なしに大きな瞳を輝かせて、あからさまに覗きこんでいく
女子校生たちの視線に、ついに耐えきれなくなってしまったのか、
恵美子が勢いよく、カーテンを閉めてしまいました。
「減るもんじゃ、ないのに・・」
と、声を出して笑っていたら、
恵美子が振り返って苦笑をしています。
「ごめんなさい・・・・
女子高校生たちの素肌が、
あまりにもピチピチとしすぎていているんだもの。
すこしだけ肌荒れ気味のお姉さんたちとしては、
あわてて、嫉妬を感じて、カーテンなどを思わず閉めてしまいました!
私たちも、ちょっと前までは、
あんなも透き通った、綺麗で健康な肌をしていたのになぁ・・・」
はにかみながら、そう答えています。
すかさずそこへ、優子の鋭い反論が飛び出しました。
「そこの発言は訂正してください。
私はまだ、不節制はしておりませんので、
自称『美肌』を保っています。
正しくは、一人称で、『わたし』と言ってください。
誰かさんとは違って、日夜、品行方正に過ごしておりますので、
そこまでの肌荒れなどは、一切ございません。
私まで同類として、仲間にしないでください頂戴、えへへ・・・」
と、すました顔でやり返しています。
やれやれ女というものは、どこまでいってもやっぱり
些細なことで見栄を張る・・・・
話が厄介になる前に、気がつかないふりをしてそのまま立ちあがり
談話室で時間を潰すことにしました。
作品名:アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25 作家名:落合順平