アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25
朝は、起床のチャイムで起されました。
いつのまにか車窓のカーテンは、開け放されています。
その窓の外へ眼をやると、朝日が登って綺麗に光り輝く海面が見えました。
小島が幾重にも連なっている、瀬戸内の海でした。
下段を覗きこんで見ました。
ベッドのカーテンを半分だけ開け放した状態で、お化粧まですませた
優子と恵美子が、仲良く並んで座っています。
「よう、レズの姉妹」
「よく寝るわねぇ~
私たちの、美女二人をほったらかしたままで。
食堂車の準備ができたそうです。
どうします?、私たちはこれから朝食へ行きますが・・」
後から追いかけると返事をして、私も急いで身支度を整えました。
二段目のベッドから降りる際に、ふと見ると、反対側の
10代のカップルは、もうすでに空の状態でした。
「あれ、途中下車かしら・・・」そう思って2段目のベッドを確認すると、
カーテンの隙間からは、昨日投げ上げたままの荷物が見えます。
それにしても、未使用かと思えるほどに、
整頓されたベッドの様子は見事です。
人は見かけによらないと言いますが、
片付け具合に感心をしつつ、
すこしだけ、あの若いアップルを見直しました。
それにしても朝早くから、どこに消えたのだろうと思っていたら、
食堂車へ向かうデッキの片隅で、仲良く肩を抱き合って、
海の様子を眺めている、羨ましいほどの2人の姿に出あいました。
(いいなぁ、青春をやってるぜ・・・・)
食堂車は赤を基調にした洋風の、とてもシックな内装です。
いつか観た、映画の「オリエンタル急行」のような雰囲気がありました。
列車内とは思えない、洒落た高級感さえ漂っています。
恵美子が窓を背にして座っていて、「こっち」と、
手で合図してくれました。
意外なほど座席は空いていて、
食堂車のお姉さんも朝から手持ち無沙汰のようです。
優子の説明では、寝台特急は各駅ごとの停車時間が長いために、
駅弁を買い込むために、は大変に便利だといいます。
瀬戸内は魚が美味しいから
お昼はどこかの駅弁にしましょう、という話になりました。
この列車に乗っている限りは、朝食どころか昼食を食べ、
そのうえにさらに、夕方近くまで走りぬかなければ、
列車は最終目的地の西鹿児島駅には着きません。
優子が言うように、たしかに
『果てしなく続く・途方もなく長い鉄路』です。
九州は、まだまだはるかに先でした。
車窓にひろがっていくのは、列車がどこまで走ろうが、
複雑に入り組んだ瀬戸内の海と、小島の連なりだけが見えています。
列車はやがて広島を越え、本州と九州の境目である
門司をめざして疾走します。
8時を過ぎたころから、一晩お世話になったベッドが撤去されました。
ブルートレインは、2日目の特急列車へその装いを変えます。
それでも事態は変わりません・・・・
(もう充分に退屈し切った乗客たちを、乗せたまま、)ひたすら海岸線を
西へと向かい本州の西のはずれを目指します。
九州を南下する前に、列車には装備の変更が待っていました。
本州最後の駅となる下関駅では寝台特急ならではの、
一大イベントがあります。
九州を走るために必要な、電気機関車を付け替えのための作業です。
ここも鉄道ファンたちによる、絶好のシャッターチャンスの場所です。
熱狂的な鉄道ファンが、カメラをかまえて先頭車両のあたりで
陣取っているのが見えます。
さきほどの食堂車のお姉さんたちも、ホームに降りていて、
車掌さんとにこやかに談笑をしていました。
作品名:アイラブ桐生 第二部・第二章 23~25 作家名:落合順平