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てっしゅう
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novelistID. 29231
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「ぶどう園のある街」 第五話

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「美也子さん、ここは来たことがありましたか?」
「いえ、ありません。殆ど外食はしませんから、知らないんです」
「そうでしたか。理由があるんですか?」
「ええ、母親が10年前に脳梗塞で倒れまして・・・それからは介護の毎日で外に出られなかったんです。今は随分良くなって父親が世話をして居りますので、こうしてお誘いいただけるようになりましたが、この町の事はあまり詳しくないんです」
「私が病気をした時期と同じだったのですね。何かのご縁かも知れないな」
「縁?高見さんと私の?」
「ええ、こうして逢っている事も偶然ではなかったような・・・そんな気がしています」

中に入ってパスタを注文してコーヒーを飲みながら少し時間を高見は気にした。

「10時になりましたね。帰らないといけませんか?」
「明日はお休みなのでもう少しぐらい構いませんよ」
「ご両親が心配されるから帰りましょう。自宅まで送ってゆきますので今から帰ると電話してあげてください」
「ありがとうございます。ではそうさせて頂きます」

レジの横にあったみどりの電話で家に美也子は電話をした。

「高見さん、今掛けて来ました」
「じゃあ、出ましょう。勘定は私が払いますから」
「自分の分は払わせて下さい」
「そんな事を言うんじゃないよ。男が払うものだよ、気にしなくていいから」
「本当に払いますから・・・」
「こんな年なんだよ、恥じかかせないで・・・ね?」
「はい、ではご馳走になります」
「うん、これからも・・・だよ」
「これからもですか?」
「そう、これからもです」

美也子は黙ってしまった。イヤだったのではない。自分の気持ちが解らなかったのだ。