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君にこの声がとどくように

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 *  *  *

「アゴの反対側だから、ゴアだなー」
 港に着くと、ギルバートはそんな冗談を言った。
 ザックから預かった手紙を港の役人に渡した。どうやら彼らは顔見知りらしい。手紙を読み終わった役人は「フロンティアへようこそ」とだけ事務的に言うと、そのまま背中を向けてどこかへ行ってしまった。
「自由にしていいってことかな?」
「おいらはそうだと思うよ」
「お腹すかないか?」
「おいらもそう思ってたトコ」
 二人は適当な食事処を見つけて食事を済ませた。ギルバートの旺盛な食欲を、ナインは苦笑いを浮かべながら眺めていた。
「そういやニイチャンはどうしてフロンティアに?」
 ナインは船に乗る際に外していた鎧を装着し始めている。普段使い慣れない筋肉を使ったせいか、身体中が悲鳴をあげている。
「人を探していたんだ」
「へぇ、おいらと一緒だね」
 ギルバートの表情に変化はない。
「大事な人なんだ、とてもね。この身体を身代わりにしてでも守りたいと思っていたのに。守ると約束したのに、守れなかった」
「ニイチャン……なんかごめん」
 ナインの沈痛な顔を見て、ギルバートは申し訳なく思ったのだろう。
「いいんだ。話そうと思ってた。その人がフロンティアにいると知って、すぐにアゴに向かった。アゴに着いてからのことは、言う必要ないよね」
「じゃあ、ニイチャンはその人のところに行くんだね?」
 その問いを耳にしたナインは、ピタリと動きを止める。
「いや、その前に一つやらなければならないことができた」
「いいの? 大事な人なんでしょ?」
 ナインはすくと立ち上がる。
「こんなことを言ったら笑われてしまうんだろうけど……」
 そして、フロンティアの方角である北東の空を見上げる。
 その空の下にはキャスがいる。
「声が……歌が聞こえたんだ。僕が会いたいのはキャスで、彼女が待っているのは僕なんだ。なら僕は、このまま会いに行ってはいけない気がするんだ」
「?」ギルバートは訝しげにナインを見上げた。
「それでどうするの?」
 ナインは微笑む。その表情に迷いは無い。
 ―― キャス、ごめんよ。
 少し遅くなるよ。もう少しだけ待ってて。
 必ず迎えにいくから。


「キミのお姉さんを助けに行くんだ」


          ― 第二章 旅路 了 ―