詩集:月を見上げる
渇望
水
シンクタンクのなかに
置かれたグラスのなかに
水道から一直線に注ぎ込まれる
とめどなく一心に
やがてコップを満たし、あふれ
長いトンネルのなかへ吸い込まれていく
川
ときに穏やかになだらかに
ときに激しく感情をあらわにし
抑えきれない衝動を抱えて
脇道にある草花は見て見ぬふりして
途中で二手に別れたり
再会したりして
己の思うがままに進んでいく
沼
行き詰ったそのさきは
暗く湿ってなにやら怪しい
踏み入るとなんだか心地いい
虜になり
好奇心が渦を巻き
さらに奥のほうへ
背徳感を盾にして
欲望に身を傾けて
よどむ世界へ埋まっていく
海
天と同じ色をしている
巨大なプールへ飛び込むのもよい
からだすべての触覚を
つかって味わう解放感と
終わりのない自由を手にして
しかし世の果てをどこかで求めながら
時が進むとおりの色に染まっていく
空
どんなに望んでも手に入らない