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いとこんにゃく
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誰が為にケモノ泣く。Episode02『手のひらに希望を』

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 その質問をするには、少し勇気が必要だった。名称からしてなにを意味するのか医学知識に疎い一弥でもなんとなく察しが付く。だが、聞いておかなければならないことだった。
「あんたがいう…その。心傷顕在化症ってのは病気、なんだろ?」
 一弥の問いにアリシアはすぐには答えなかった。手に持っていたティーカップをテーブルに置き、どう説明するか思案するように腕を組んだ。
「――アタシたちは、心傷顕在化症を精神疾患の一つと位置づけている」
「…」
 アリシアの明確な答えに、一弥の視線が彷徨《さまよ》った。
 自分の罪が自分を追い詰め、ケモノを生み出し、自分が痛みから逃れたいがために無関係の人間を傷つけていた自分。無意識の【疵】からの逃避とはいえ、自分の犯してしまったことに自責は感じている。できることなら認めたくない。でも、だからと言って病気だからと都合のよい理由をつけるのはもっと嫌だった。
 もう後悔はしないと、決めたのだから。
 一弥は改めて、アリシアの金色の瞳を見つめた。
「――アリシア。どうすれば、【疵】を克服できるのか教えてほしい」
「…八のその瞳、アタシは好きよ」
 アリシアは一弥の言葉に満足そうに頷いた。
「何にせよ、焦ることはないわ。ゆっくりと【疵】を受け入れていくことが重要なの。【疵】と向き合うということは痛みを受け止めるということ。だから、つらいときはつらいと口にしなさい。一人で苦悩してはダメよ。拒絶や失意、逃避はケモノがもっとも活性化する要因となる。今の状態は一時的な処置に過ぎないわ。心には【疵】がある。それだけは忘れないで。
 安心なさい、あなたは一人ではないわ。アタシがいるし、オペレータの周防もいる。それに可愛い相方もいるじゃない。【疵】を抱えるのは自分一人でも、周りにはそれを理解し、支援してくれる人もいるわ。八ができると思えば、それは困難なことじゃない」
「期待に応えられるように、がんばるよ」
 アリシアの励ましに一弥は再度決意を固め、その手を差し出した。アリシアも快くその手を握り返す。
 それは信用の証であるとともに、一弥が正式にケモノ持ちとなった瞬間であった。