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アイラブ桐生 第二部 20~22

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 沖縄出身の優子と
全共闘の妹、美恵子がほろ酔い加減でやってきました。
学内で送別会を『ハシゴ』してきたそうです。
さらに日が暮れてから、茨城くんが
いつもの一張羅の背広姿でやってきました。
さっちゃんが涼しい顔で登場したのは、
それからさらに10分も経ってからです。



 「まだ、焦らしているの」

 ・・・・と小声でさっちゃんに聞けば・・


 「あわてる乞食はもらいが少ないから、
 簡単に落ちたら駄目と、百合絵さんからはきつく言われています。
 女の値段が下がるから、ここはもう少し様子を見なさいって
 みんなからも、クギもさされています・・・・」


 (じゃあまだ、当分の間は、おあずけか・・・・大変だ茨城くんも)
 (そう思うでしょ、私も少しだけ可哀そうかなと思うけど・・・
 でも、惚れるよりは、惚れさせたほうが勝ちだって。)


 なるほど、と笑いをこらえながら
さっちゃんの耳打ち話を聴いている時でした。

「私の男を取るな!」と百合絵が現れました。
雑誌を小脇に抱えたまま、花束などを振りまわしながらの乱入です。
こちらはもう、完璧ともいえる酔っ払い状態でした。
もどかしく靴を脱ぎ捨てて、やっとの様子で小上がりに這い上がり、
無造作に『餞別ッ。』といいながら、テーブルの上へ
赤いリボンのついた雑誌を投げ出しました。



 「手こずった。
 神田の古本街を、さんざん探してみたけど見つからなかったので、
 しかたがないから、全共闘あがりを酔い潰して、
 そいつのところから、この貴重な一冊を失敬してきた。
 美恵子。後で謝っておいて頂戴ね、
 この本の持ち主で、全共闘くずれのあんたの兄貴に・・」



 それだけ言うと花束を胸にかかえこんだまま、、 
私の肩にもたれかかって、あっさりと眠り込んでしまいました。
投げ出されたのは、全共闘の学生たちの愛読書ともいわれた、
かつての月刊誌・ガロでした。
それも「つげ義春」と「永島慎二」のふたりの作家が
同時に掲載されているという、
きわめて数のすくない貴重な一冊です。
あれこいつ? いつのまに俺の好きな作家を覚えたんだろう・・・




 やがて、午後8時を過ぎた頃に散会になりました。
優子と美恵子とは明日の夕方に、また東京駅のホームで再会をします。
さっちゃんと茨城は、例によっていつもの言い訳を残しながら、
仲良く肩を並べて、夜の街に消えていきました。
ようやく目をさました百合絵は、私の肩にもたれたまま、
それぞれに小さく手をふるだけで、また眠そうに目を閉じました。