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睦月カオル
睦月カオル
novelistID. 35824
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キスキス・モー

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 自分だって寂しかったハズなのに。最後のあのやりとりは仲直りなんかじゃない、別れの挨拶だったんだ!あのメモを私の手に握らせ、これで大丈夫だよって!私の鼻を舐めて、ばいばい、って!
 そのとき、私は?…私は何も返してない、あなたにスキスキってすら、言えてない!ああ、モー……モー――!!


「美香……」
 赤ん坊を胸に乗せ、仰向けのまま泣きじゃくる私の頬を、夫がそっと撫でる。
「康之……どうしよう?!私のせいでモーが、モーが……!!!」
 状況をつかめない看護師はそそくさと病室から出て行く。一人減った病室には、私の嗚咽ばかりが響き渡る。声をあげて泣き、枕に水溜りができては消えていく。
「ふぇ……」
 眠りから目覚めた息子が、私と一緒に泣き出す。小さな口をいっぱいに広げて泣く我が子の頭を撫でながら、夫が言う。
「守って……くれたんだな、モーが。お前もこの子も、モーが助けてくれたんだな。……モーには、お礼言わなきゃなぁ……」
 その言葉を聞いて、しゃくりあげながらも呼吸を整えるように大きく息を吸う。泣き続ける我が子の額に触れると、くしゅっと顔を寄せてから、泣き止んだ。私と夫は顔を見合わせ、モーみたい、と呟く。びしょびしょに濡れた自分の顔を袖で拭うと、胸の中で語りかける。
 ねぇ、モー……聞こえてる?あなたのおかげで私もこの子も、命を救われた。それだけじゃない、崩れかけていた私の心まで、あなたは救ってくれたのよ。
 夫は私の手を握ると、二人の腕で我が子の上に橋を掛けた。もう一人の息子も、一緒に抱きしめてあげられるように。
 
 帰ったら、凍える体にお墓を作ってあげよう。家が建ったら、その庭に。いつまでもいつまでも家族四人、一緒に居られるように。
 今も……いるよね?ここに。お別れじゃないよね?
 
 瞬きをした目から、最後に一粒だけ、涙が零れた。

「……キスキス、モー」


作品名:キスキス・モー 作家名:睦月カオル