カップルの出来やすい場所
おや? あの女いい感じだぞ。あ、もう男に声をかけられている。ぼやぼやしては居られない。オレは女に向かって歩き出した。
いいぞ!オレは顔がにやけた。女は、男を振り切ってこっちに向かってくるようだ。
「こんにちは」
オレの挨拶に、少し警戒の眼差しを向けた女だったが、オレの微笑に表情を弛めた。オレは間を置かず話を続けた。
「いい匂いがしてますねえ。食べに来たんでしょう」
「そのつもりだったんだけどね」
女は少し媚び含んだ声で言って、横丁に目をやった。
「食べたいんだけど、あそこに行くと頭や背中に何か付くんだよね。あれがいやなのよ」
「ああ、あれは通過儀式みたいなもんだよ。あそこを通ることが出来る者だけがおいしいものを食べることが出来るんだ」
オレが言う受け売りの説明を退屈そうに聞いていた女は
「ねえ、私ここで待ってるから持ち帰りにしてもらってきて」
と、オレに接近し、手を握りながら言った。
オレの身体のどこかが反応している。うんうん、行ってくるよ……そう決心するのに時間はかからなかった。
「しょうがないなあ、じゃあ行ってくるよ」
作品名:カップルの出来やすい場所 作家名:伊達梁川