宙ぶらりん
久しぶりに再会したアキラに神戸の色々な所を案内してあげたかったが、下田をこのまま放っておくのも憚られたため、僕は「今から3人で僕の下宿に行ってアキラのDVDを見よう」という大胆な折衷案を申し立てた。アキラは彼なりに下田にしてしまったことを反省しているようで、快く賛成してくれた。下田は何も答えなかったため、僕は彼の肩を支えながら、バイクを押して歩くアキラと並んで、3人で下宿まで向かった。
部屋に到着した僕達は、身の上話もそこそこに、アキラの持参したDVDをパソコンに挿入して再生される映像を観賞し始めた。
映像はホテルの一室で撮影されたもののようである。制服姿でインタビューに答えていた女子高生は、映像が進むにつれて少しずつ身に付けているものを脱がされ、やがて剥き出しになった彼女の上半身は、昨日アキラが電話で言っていた通り、胸が引き締まってとても薄く、腹部にはくっきりと縦横の筋が入った、極めて筋肉質な身体つきをしていた。作品はやがて男女の不道徳な体技の応酬へと進行していくが、僕はその内容に対して興奮するよりも、僕の左隣でそれを食い入るように試聴するアキラを見て、いつまでも変わらない故郷の友人に対する温かい気持ちに心を浸していた。
しかし、作品が佳境に入ってくるにつれ、僕の関心は、次第に僕の左隣から右隣へと移っていった。
部屋に到着してからというもの、ずっと隅の方で膝を抱えてうつむいていただけの下田が、映像が進んでいくにつれ徐々にパソコンの方へと近付いてくる。最終的には画面から30cmくらいの所まで近付いた彼は、ハイハイをしていた赤ちゃんがその状態のまま金縛りにあってもどかしくしているような前のめりの体制で、アキラ以上の血眼になって画面を見つめ続けた。そんな下田の奇行にアキラも驚いたらしく、彼も映像終盤は下田の方が気になってしかたない様子だった。
約50分の映像再生が終わった。普段の試聴会ではここから数十分間はアキラと2人で感想批評を述べ合う時間になるのだが、今回は特別ゲストによるエキセントリックな挙動を目の当たりにして僕達2人はしばらくのあいだ一言も切り出せなかった。
そんな室内の気まずい空気を、ようやく冷静さを取り戻した下田が感じ取ったのだろう。彼は少しだけ照れを含んだ表情で、それでもはっきりとした声で、誇らしげに、口火を切った。
「女人の筋肉美は、世界を救うよな」